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自分は褒められる事が、すこぶる苦手な人間である。中肉中背で、頭も人並みなので、褒められると文面通りにその褒め言葉を受け取ることができなかった。(例え相手が本当にそう思い褒め言葉を発したとしてもだ。)その褒め言葉をしげしげと眺め『もしかしたら何か良からぬ頼み事を、されるやもしれぬぞ。』と褒め言葉をぐるりと周回し、ふむとひとつ溜息。自分はこんなに勿体無いほどの、褒め言葉を受け取って良いのだろうか。しかし、褒め言葉を発した人間を傷つけるのは言語道断である。自分の思想を押し付ける事はしたくなかったのだ。そうして「勿体無い言葉だ。ありがとう。」と乾いた声でも口角を上げて人並みに恐縮してみせる。自分は褒められる事がすこぶる苦手である。

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彼女はいつも独りであった。休み時間も、放課後も、帰る時も。いじめられている訳ではなく、授業のグループワークで、彼女に発言を求められた時は、きちんと話をしているようである。『どこのグループにも属さない、もの静かな少女』といった印象だった。そうした彼女に、話し掛ける事は勇気を必要とすることであった。放課後、下駄箱で鉢合わせた。誰もいないと思っていたので驚いた。「…何?」彼女にはそのまま立ち去るということも出来たであろうに、声を掛けられた。「ちょっとびっくりして…。」ともそもそ答える自分に彼女は「そう。」と素っ気なく答えた。「あ、あのさ!良かったら一緒に帰らない?」彼女は目を丸くした。その後少し間を置いてから彼女は答えた「いいよ。」

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くるり、と彼女が回る。花弁のようなスカートが、ひらひらと軽やかに揺れる。「私、春が好きよ。」陽光に照らされた、桜がきらりと輝く。桜から落ちる木漏れ日の元、彼女はいつもより少しはしゃいで見えた。足元を舞い落ちる桜の花弁を見つめる。あんなに綺麗であった花弁も踏みつけられれば、惨めなものであった。「春は綺麗だけど、悲しいものだね。」自分がそう言うと、彼女は少し小首を傾げた。「私は貴方と一緒に居られる春がまた迎えられたことが、嬉しいのよ?」ふふふ、と嬉しそうに笑う彼女の頭を照れ隠しでくしゃり、と撫でてやると鈴を転がすようような笑い声が響いた。桜の花弁の落ちた先の未来は、彼女は知らなくてもいいと自分は思った。

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私はこの町が嫌いだった。ひそひそと他人の噂話しか、娯楽のない、山間の谷間の町。誰の家の2階の電気が点いてるから、客がきているのではないか等と、どうでもいい知り得ない話をしては互いに互いを監視し合う。息苦しさしか感じられなかった私は、空気を求めるように都会へと出て行き、地元へ帰ることは殆ど無くなった。今もまだ、あの地には噂話しか、娯楽は無い。

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ひやりとした床板の温度に足が凍りそうになる。ふと目が覚めた真夜中、なかなか寝付けそうにないので一旦起きようとしたのだ。窓の端から月明かりが漏れ、その明かりを頼りに厚手の靴下を手繰り寄せ何とか事なきを得た。私の足は凍らずに済み、無事に廊下へ辿り着く。その日は月が随分と明るかった。廊下に伸びる影が床板から壁までのそりと這っている。この明るさでは、星はあまり見えないだろうなあと窓から覗き見る。丸い大きな月と、僅かな街灯が灯るばかりで星は然程多く見えないように感じた。この満月の光は暖かく包まれるようにも感じられるが、星明りさえも消し飛ばす冷たい孤高の光のようにも思えた。

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ジトリとした重たい空気を、打破するかどうかを思案し始めて5分程経つ。切っ掛けは些細な事だったが彼女と言い合いになってしまった。その内容は、此処では省略としよう。彼女は責めるようなことは言わなかったが、視線の動きで、まだ納得出来ていないことが分かった。部屋の時計の音がやけに大きく聞こえる。それ程に、二人して沈黙を貫いていた。「ごめん、さっきは言い過ぎた。」彼女がすこし拗ねたような様子で、小さい声で呟く。膝の上で握られた小さな拳は、まだそのままだった。「こっちも言い過ぎた。だから、おあいこだ。」そう言うと彼女は漸く此方に視線を向けた。先程よりは幾分落ち着いた様子である。冷戦は、無事に和解により終戦となった。

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きらりと光る指輪が、彼女の指から零れ落ちそうになる。「大分指輪が緩くなってしまって…。」病魔により、随分とやせ細った彼女は、枯れ木のような細い指で、指輪を指の根元へと戻した。見舞いに来る度、彼女の具合が悪くなっているのが素人の自分でさえも分かった。そこからいつものように何も気付かないふりをしながら、徒然に会話を交わした。夕日が窓から差し込む時間になると彼女は決まって「いつも来てくれて、ありがとう。」夕日に照らされる彼女は、どこか現実味が無かった。「好きで来てるから、気にするな。」そう言うと彼女は、にこりと笑った。こんなに儚い笑顔はかつて見たことがなく、グッと心臓を鷲掴みされたような心地がした。

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まだ冬の寒さは残るが、幾分か陽の沈む時間が遅くなってきた。縦長に伸びている自分の影を追いかけるように、歩みを進める。街中の雑踏は、なんとなく苦手であったがそこを通らねば、駅に辿り着かないのだから致し方ない。もう二度と会うこともない人々とすれ違い、何となく溜息が出た。駅前だから人が多いのは当然だったが、自分はそれぞれの人と何も接点が無いのだ。これは何とも言えない、孤独感であった。雑踏をくぐり抜け、駅の改札を抜けて、いつものプラットホームへと向かう。何てことは無い唯の日常に感じる孤独は、影が伸びるように自分に纏わり付いて中々離れようとはしなかった。

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私は貴方から頂いたものは、何でも嬉しかったことを思い出す。一粒の金平糖でも、道端にある名前も知らない一輪の花でも嬉しいです。貴方が私の為に、選んでくれたと思うと、胸に込み上げるものがあったのです。その時の貴方の気持ちを思うと、どんな物でも嬉しいのです。

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ふと目が醒める。まだ陽が昇っていない時間帯であるため、カーテンの向こうからは街灯の光が僅かに差し込むばかりであった。台所まで、忍び足で歩きコップ半分程の水を飲み干した。そこで漸く気持ちが落ち着いた。時計の秒針の音が、妙に大きく聞こえる。ちくたくと、秒針は進むばかりである。ふうっと、溜息が知らないうちに出た。寝室へ再び忍び足で戻る。小さな寝息を立てている相手を起こさぬよう、なるべく静かに布団の中へと滑り込む。自分を探していたのか、右手がぱたぱたと布団の中で動いていた。その手を握りしめてやると、安心したのか手は探し物を止めていた。無意識だったとしても、自分を探してくれる人がいるのはとても幸せな事だと手から伝わる体温でしみじみと感じた。

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