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駅舎を出た途端に、海の香りがした。「たまには帰ってこい。」と言う、両親にせっつかれて久々の帰省となった。寂れた商店街、無人駅、海の香り。どれもこれも、変わっていなかった。海岸でも見てみようかと、歩き出す。次第に波の音が聞こえてきた。此処で自分は育ったのだと感慨深い心持ちになった。

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靴を履いた後、左足の爪先をトントンと2回、彼の癖だ。「行ってきます。今日は早く帰れると思うけど、また連絡する。」玄関で彼はいつも通りの台詞を言う。「行ってらっしゃい、気を付けて。」私もいつも通りの台詞を言う。いつも通り、これが如何に幸せで有難い事なのか、よく分かっていた。

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貴方は何時もそうして誤魔化して、私はそれに気が付かないふりをしていた。この生活はいつまで続くのか、不安になった。しかし、私は貴方から離れる様な選択が出来なかった。選択肢にさえ、挙がらなかったのだ。共依存と言われればそれまでだけれど、私は貴方と離れることは、どんな事よりも辛いのだ。

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「1つだけ、願いが叶うなら何をお願いする?」彼は文庫本に視線を落としたまま、そう呟いた。「何?」私は、ぼんやりと返事をする。「小説の台詞だ。自分だったら、どうする?」成る程、と心の中で納得した。「私はいつまでも一緒に居られるように、とお願いする。」そう答えると彼は頷き、微笑んだ。

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彼女は寡黙であった。会話は必要最低限、聞かれたことに対する答えのみ。無口ではあるが、彼女は人の話を無視するようなことはしなかった。一度彼女に問うたことがある。「あなたの事もっと知りたいな。」彼女は困ったような様子で「私は、弱い人間だから全てを話す事が怖いの。」と答えた。

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アスファルトに雨粒が一つ。じわりと広がり吸い込まれていく。次々と雨粒が落ち、やがて水溜まりを作った。新しい靴を下ろしたばかりの自分はガッカリしながら、下駄箱から靴を取り出す。ビニール傘を広げ校門を見やると、赤い傘を差した彼女が立っている。自分に気が付いた彼女が、小さく手を振った。

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ふう、と蒲公英の綿毛に優しく息を吹きかける。綿毛が風に乗り、あちらこちらへと飛んでいく。たった今迄この1つの茎に皆付いていたのに、今では何処へ行ってしまったか分からない。卒業後疎遠になった、クラスメイト達の事を思い出した。もう何年も前の事であり、今更寂しいとは思えなかった。

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光に誘われるように、そっと窓辺へと向かう彼女。春と言っても、夜はまだ冷える。「月が明るいわ。」カーテンの隙間から夜空を見上げた彼女は、嬉しそうにそう言った。「どれ、僕も見てみようか。」と二人並んで窓辺から、夜空を見上げた。確かに月は明るかった。矢張り少し肌寒く、そっと手を繋いだ。

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駅は、いつに無く混み合っていた。『帰宅ラッシュと重なるの忘れてた…。』セーラー服の少女は、人混みに困惑しながらもどうにかして、目的のプラットホームへと辿り着く。当然ながら、プラットホームも混雑している。人の隙間をぬって歩いていたら、黄色のブロックより外側に出てしまった。誰かにぶつかり、足がよろめく。踏ん張ろうとした足がもつれる。『落ちる!』と思った瞬間に、空を切る手を力強く握られた。「危なかったね、大丈夫?」黒いスーツに黒いコートを着た、細身のサラリーマン風の男が優しく声をかけた。「す、すみません。大丈夫です。」プラットホームの内側へ戻ったら、掴まれた手が途端に恥ずかしく感じられた。「君に死なれると、困るんだよ。」サラリーマン風の男は、冗談めいたように言う。セーラー服の少女は言われた言葉の意味を理解できなかった。「それは、どういう…?」サラリーマン風の男は、少女に耳打ちをした。「僕は、死神なんだ。だから、君に今死なれたら、僕の仕事が無くなるだろう?」

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月がやけに明るい夜だった。街灯の少ない田舎道でも、歩く自分の影が見える程である。冬の空気は、凛と澄んで肺に流れ込む。ふわふわと白い吐息が、霞のように消えゆく。空には星も散らつき、煌々と輝いていた。冬の夜は嫌いでは無かった。空気が澄み、宇宙が近くなったような気がするからだ。

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