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段々と空が高くなる。
星がよく見えるようになってくる。
久し振りに星座盤を取り出す。
ぐるりと回して、今日の日付に合わせた。さて、見えるかどうか。
「どう?」
彼女は、マグカップを2つ持ってやってきた。
そのマグカップを受け取り、天体望遠鏡を覗き込む。
隣に座る彼女からは、シャンプーの香りがする。
「見えそうだ。寒くない?」
ブランケットを彼女に手渡して、天体望遠鏡の側に来るよう促す。
「ありがとう。」
彼女は、そっと望遠鏡を覗く。
其処には宇宙が広がる。遠い遠い宇宙が。
暫く夢中になって観ている彼女の隣で、マグカップに口をつける。
温かいカフェオレが、優しく身体を温める。
「凄いね。」
彼女は、此方を振り返って嬉しそうに笑う。
その笑顔が見られただけでも、充分だなあと感じた。
「誕生日、おめでとう。」
「ありがとう。」
彼女は隣に戻ってきて、ブランケットで2人を包み込んだ。
ふわふわとした触り心地の柔らかいブランケットだ。
「去年も星が観られて嬉しかったなあ。」
「そうだね。」

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雨が降る。ここ数日は、ぐずついた天気が続いている。
出掛けるのも億劫だというのに、こんな時でも仕事へは行かねばならぬ。
上下のスーツに着替え、ネクタイを締めながら鏡で自分の眠たそうな顔をぼんやり見る。
『何かの間違いで会社爆発しねえかな。』
物騒な事を考えながら、鞄を持ち家を出た。雨音が一層強く聞こえる。
念の為いつもよりも早く出社しているあたり、自分も充分飼い慣らされた会社員であると思った。
案の定、駅は混雑しダイヤの乱れもある様だった。
ビニール傘を畳み、目的のプラットホームへと向かう。
液晶ビジョンに速報ニュースが流れている、目を向けて内容にギョッとする。
「な、嘘だろ…。」
『速報 株式会社○○のビルが爆破される』
速報の赤い文字がまるで血文字の様だ。
さて、どうする。会社に行ったところで建物は崩壊している。
動揺しているところで、社用の携帯電話に電話が掛かってきた。
「もしもし。」
『もしもし、ニュース見たか。今日は自宅待機だ。』
電話の相手は自分の直属の上司であった。
「せ、先輩、何がどうなっているんですか?」
『こっちが聞きたいくらいだ。一応、用心しておけよ。何が目的か分からないからな。』
「…はい。失礼します。」
電話はそこで終わった。目的地を失った自分は、ふらふらと自宅へと足を向けた。
まさか、本当にこんな事があり得るとは思いもしなかった。
自宅へと着き、暫くそのままぼうっとしていた。
漸く部屋着へと着替えた頃に、今度は私用の携帯電話に電話が掛かってきた。
非通知だ。誰だろうか。
「もしもし?」
『やあ、おはよう。こんな雨の日に、爆破させるのは大変だったよ。』
背筋がゾッとするのを感じて、振り返る。
そこには誰もいない。当たり前だ、此処は自宅なのだ。
「何の話…、ってか、誰だよアンタは!」
『何かの間違いで会社爆発しねえかなあ、そうボヤいてたのは君だろう?』
盗聴器が仕掛けられているのか?部屋には、自分以外入っていない筈だ。
「だからってあんなことするか!?」
『君の為を思ってしたのに、散々な言われようだねえ。』
「意味…わかんねえよ。」
拳を固く握り締め、テーブルを叩く。
リモコン類が、ガタガタと揺れるだけだった。
『じゃあ、そろそろ切ろうか。あ、名前だったね。私の名前は、スズキだ。じゃあ、またね。』
電話は唐突に終わった。
自分の荒い呼吸音の他には、窓に打ち付ける雨の音しか聞こえない。

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二人で黙ってプラットホームのベンチに座っていた。
田舎の駅は、人も疎らである。
「そろそろ発車時刻みたいだから、電車乗るよ。」
彼はそう言ってスーツケースを手に取り、電車へ乗り込んだ。
ドアが閉まる迄は、まだ時間があるようだ。
「気を付けて行ってきてね。」
私は上手く笑えているだろうか。少し上ずった声で、見送りの言葉を贈る。
「うん、ありがとう。」
彼は照れ臭そうに笑った。
「ちゃんとご飯食べるんだよ。」
そう言うと彼は笑った。
嗚呼、やはり笑顔が好きだなあと悠長な事を考えていた。
発車ベルの音が、プラットホームに響き渡る。私は一歩後ろに下がった。
「着いたら電話するよ。」
「うん、ありがとう。待ってる。」
ドアが閉まる。彼と私の間に、物理的な壁が出来た。
彼は、ドアについている窓から、こちらに向かって手を振っている。
電車がゆっくりと動き出す。私も手を振って彼を見送る。
今出来る精一杯の笑顔で、私は手を振り続けた。
「置いて…行かないでよ…。」
ぽつりと呟いた独り言と共に、一粒の涙が頬を滑り落ちた。
人のいないプラットホームに、独り言は吸い込まれて消えていった。

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睨み付ける瞳には、殺意が燃えていた。
「てめえ、何した。」
「人材整理だよ。」
何をしたかなんて、この部屋を見れば分かるだろうに。
「全員殺す必要は無いだろ!」
「誰かから情報が漏れるより、安心だと思うけどねえ。」
「だからって…。」
「こいつらより情報の方が価値があるんだ。それだけだよ…?」

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寝る時には小指を絡ませて、少し話をする。
タオルケットに、包まりながら他愛も無い話をする。
それは、ただただ幸せな時間だった。
いつもとりとめのない話をする私に、彼は相槌を打つ。
2人で笑ったりしながら、小指を絡ませている。
やがて小さな寝息を立て始めて、私も目を閉じる。
静かな部屋で眠る。

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雑踏。雑音。
イヤフォンを、耳に嵌めて音量を上げる。
人混みは嫌いだ。
だが、嫌いだからといって避ける生活は、この時代では難しい。
大量の人を輸送する電車、駅は朝から騒めきに包まれている。
こんなに沢山の人間が、何処に行き何をするのだろう。
雑踏。雑音。
頭の中にこびり付いたそれを剥がせない。

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短く切り揃えられた桜色の爪、涼し気な目元、キリッと上がる口角。
大きな目は印象的な、蜂蜜色をしている。
瞬きすると、蕩けてしまいそうな色合いだ。
「そんなに見られると、照れる…。」
「え、あ、ごめんね。」
「や、別に良いけど…。」
伏し目がちにそう言ったあなたは、照れ臭そうに笑った。

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ふと目が覚めた。其処は見知らぬ天井だった。
しかし、隣にはよく見知った顔がいた。
其方に顔を向けると、ほっとした顔をして微笑まれる。
「大丈夫、大丈夫。」
そう言って私の手を取り撫でる。
ぼろぼろと涙が瞬きをする度に、零れ落ちる。
私の気持ちなど何も知らないくせに、よくそんな言葉が言えたものだ。
「私は、私は…。」
「君は此処にいる。生きている。」
頭と両腕に巻かれた包帯、幾つものチューブに繋がれている。
足にはギプスがつけられている。
また失敗した。
「私は、また失敗した。死に損ないだ。」
「違うよ。神様がまだ早いからって、君を此方に帰してくれたんだよ。」

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寝息を立てている君に、タオルケットをそうっと掛ける。
僅かに身じろぎした君は、薄く目を開ける。
「ごめん、起こしたね。」
「ん、大丈夫。ありがとう。」
髪の毛を撫でるとうふふと、君は笑った。
「ねえ、暫くこうしてて?」
「いいよ。」
君はゆっくり目を閉じる。
髪の毛を撫で、僕は君を見つめていた。

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窓についた雨粒は重力に引っ張られて、下へ下へと速度を増す。
その跡の一本筋は、まるで涙の跡のようだった。
彼と別れたのは、こんな日だったと思う。
雨がざんざん降る中、それでも彼の声だけは、しっかりと聞こえていた。
「俺じゃあ、駄目か。」
悔しそうにそう言った彼に、私はこう返事をしたのだった。
『これ以上、あなたの未来を奪いたくない。』
携帯電話に打ち込んだ文章を見せる。
私は耳が聞こえず話す事が出来ない人間だ。
意思表示は手話か、携帯電話に打ち込んだ文章で行っていた。
彼は、眉根を寄せて溜息をひとつ。
「俺はいつでも待ってる。待ってるからな。」
念を押されるようにそう言われた。
彼の瞳から、一粒涙が押し出された。

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