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雨が降る。ここ数日は、ぐずついた天気が続いている。
出掛けるのも億劫だというのに、こんな時でも仕事へは行かねばならぬ。
上下のスーツに着替え、ネクタイを締めながら鏡で自分の眠たそうな顔をぼんやり見る。
『何かの間違いで会社爆発しねえかな。』
物騒な事を考えながら、鞄を持ち家を出た。雨音が一層強く聞こえる。
念の為いつもよりも早く出社しているあたり、自分も充分飼い慣らされた会社員であると思った。
案の定、駅は混雑しダイヤの乱れもある様だった。
ビニール傘を畳み、目的のプラットホームへと向かう。
液晶ビジョンに速報ニュースが流れている、目を向けて内容にギョッとする。
「な、嘘だろ…。」
『速報 株式会社○○のビルが爆破される』
速報の赤い文字がまるで血文字の様だ。
さて、どうする。会社に行ったところで建物は崩壊している。
動揺しているところで、社用の携帯電話に電話が掛かってきた。
「もしもし。」
『もしもし、ニュース見たか。今日は自宅待機だ。』
電話の相手は自分の直属の上司であった。
「せ、先輩、何がどうなっているんですか?」
『こっちが聞きたいくらいだ。一応、用心しておけよ。何が目的か分からないからな。』
「…はい。失礼します。」
電話はそこで終わった。目的地を失った自分は、ふらふらと自宅へと足を向けた。
まさか、本当にこんな事があり得るとは思いもしなかった。
自宅へと着き、暫くそのままぼうっとしていた。
漸く部屋着へと着替えた頃に、今度は私用の携帯電話に電話が掛かってきた。
非通知だ。誰だろうか。
「もしもし?」
『やあ、おはよう。こんな雨の日に、爆破させるのは大変だったよ。』
背筋がゾッとするのを感じて、振り返る。
そこには誰もいない。当たり前だ、此処は自宅なのだ。
「何の話…、ってか、誰だよアンタは!」
『何かの間違いで会社爆発しねえかなあ、そうボヤいてたのは君だろう?』
盗聴器が仕掛けられているのか?部屋には、自分以外入っていない筈だ。
「だからってあんなことするか!?」
『君の為を思ってしたのに、散々な言われようだねえ。』
「意味…わかんねえよ。」
拳を固く握り締め、テーブルを叩く。
リモコン類が、ガタガタと揺れるだけだった。
『じゃあ、そろそろ切ろうか。あ、名前だったね。私の名前は、スズキだ。じゃあ、またね。』
電話は唐突に終わった。
自分の荒い呼吸音の他には、窓に打ち付ける雨の音しか聞こえない。
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