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夏の暮れの事だ。ヒグラシの鳴き声が響き、とんぼが夕空を飛翔する。鈍器で頭を殴られた様な連絡が入る。『祖母が倒れた。今夜が峠だそうだ。』父親の連絡に、動揺して暫し呆然とした。車で15分程の総合病院に搬送されたらしい。急いで車で向かう。祖母との思い出が走馬灯のように、頭を駆け巡った。

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ガシャンという音と共に、小さな悲鳴が聞こえた。
足元にいた猫がするりと、その場を後にして別の部屋へと逃げて行く。
さて、何事かと思い台所へ行くと、割れた湯飲みが一つ床に破片を散らしていた。

「ごめんなさい…。すぐに、お片付けします。」
「大丈夫だよ。湯飲みは買えば良い。ところで、怪我は無いかい?」
「はい、ありません。」
台所に置いてある、小さめの箒と塵取りで湯飲みの欠片を集める。
屈んだ時にちらりと見える頸が陶器の様に白い。
「大変失礼しました。すぐに、支度をします。」
「大丈夫だよ、ゆっくりね。気を付けてね。」
「恐縮です…。」
君は困った顔をして、再度緑茶を新しい湯飲みに淹れて行く。
「君の分も淹れておいで。一緒にお茶でも飲もう。」
「ありがとうございます。光栄です。」
ぱっと花が開く様な笑顔だった。
君の笑顔は、いつでも見飽きない程の魅力を持ち合わせていた。
嬉しそうに茶の支度をしている。茶菓子の最中を取り出しながら、此方を振り返る。
「ご主人、粒餡とこし餡どちらになさいますか?」
「じゃあ、こし餡にしようかな。」
「かしこまりました。」
茶の支度を整えた君は、慎重にお茶を運んできた。
「ありがとう。美味しいよ。」
緑茶に口をつける。茶葉の爽やかな香りが鼻腔をくすぐる。
「この茶葉は当たりですね。」
君は嬉しそうに、にっこりと笑った。

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彼は、私を責める事はしなかった。只、ゆっくりと息を吐き出して、そうか。と言ったきりだった。
「ごめんなさい…。」
「良い人見つけるんだよ。」
彼は私の将来の事まで心配出来るほど、穏やかだった。互いに好きであっても、一緒に居られなくなってしまった。彼に対して、何と詫びたら良いのか分からなかった。
「一緒に過ごせて、幸せだった。」
「私も。」
涙で視界が滲み始め、何度か瞬きをして誤魔化した。
「それじゃあ、さようなら。気を付けて帰るんだよ。」
彼はそう言って、私が駅の改札口を通るまでずっと見送ってくれていた。

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蝉の鳴き声、入道雲、線路の向こうの蜃気楼の様なゆらぎ。陽が高い時間帯は少しでも外にいると、身体が水を欲するくらいだ。陽光を見上げる。雲ひとつない、真っ青な空が広がる。じりじりと肌を焼かれる様な感覚がする。こんなに夏らしい日も、久々だった。ふう、と一息吐きだす。額に玉の様に浮かぶ汗を拭う。風に揺られた風鈴の音が聞こえてきた。どうやら少し風が出てきたようだ。風鈴の音を聞きながら、歩みを進める。

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たった一秒の事で、世界はあっという間に変わってしまう。咄嗟にでも手を引っ張っていたら、あの道を通らなければ、前日に一緒に帰る約束をしなければ。あの人は死ぬ事は、なかったのだ。背筋が凍りつき、ただただ呆然と車道を見る事しか出来なかった。慌てて駆け寄っても、何も反応は無かった。ぬめりとした赤い液体が、アスファルトに染み込んでいく。こんなのは、嘘だ。あってはならない出来事だ。こんな事は…。あの人ではなく、私だったら良かったのに。

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からころと、音がする。コップに入れていた氷が、崩れる。コップの表面に出来た水滴は、集まって下へと流れ落ちる。暑い。酷暑である。団扇を片手に、新聞に目を通していたが少し休憩しよう。ふと窓を見ると、真っ青な空が見えた。まるで、切り取ってそこに貼り付けた様である。嗚呼、すっかり夏だな。

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貴方、聞こえますか。私の声が貴方に聞こえる訳では無い。彼は生まれつき、耳が聞こえない。手話も覚えたが、私達は筆談で会話をする事が多かった。1日の最後に交換するノートも、何冊目になるだろう。彼の几帳面な字が並ぶノートが何よりも 大切だった。ノートが増える毎に、宝物が増える様だった。

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何が足りなかったのだろう。昔の彼女の事を思い出す。お互いに好きな気持ちは、確かにあったのだ。でも、足りない物が何か分からなかった。好きな気持ちだけで、ずっと一緒に居るのは難しい、そう聞いた事がある。全くもって、その通りだった。足りない物を探して組み立てる事が、僕等は出来なかった。

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彼は海外出張から、1週間程日本に滞在する為に帰ってきた。「久し振り、髪の毛伸びたね。」彼は私の頭を撫でる。会えたのは嬉しかったが、複雑な気持ちだった。「今日は、お願いがあってきたんだ。」彼は胸ポケットから、小さな小箱を取り出した。「結婚して下さい。」私は、泣きながら何度も頷いた。

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陽が長くなる。冬に比べると、随分時間の流れが変わった様に思える。湿気を含んだ独特の風が吹く。嗚呼、雨が近いのか。早目に家に帰らねば。家路を急ぐ。雨に濡れるのは困る。今日は大事な本を買ったのだ。雨が近付いてくる様な気がして見上げた空は、大きく灰色の雨雲が迫ってきている。さあ、急げ。

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