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ふわりと雪の舞う様子は、彼女の髪が揺れて長い睫毛が伏せられている様を思い出させた。幾年か前の冬の日であった。どうしても言いたいことがあるからと、いつもの帰り道より遠回りして公園に寄った。冷えたベンチに座り、彼女の方を見やるが膝のあたりで握った拳を見つめるばかりであった。「私、引っ越すことになりました。」  さらりと、歌のような音で頭に言葉が滑り込む。いやいや、これまでその様な素振りは全く見せなかったじゃないか。「…そうか、いつ頃に?」自分から出た言葉は、酷く冷静でいるように響く。頭の中はこれ程にも混乱しているというのに。「今学期が終わったら、になります。」片手で数えられるその日数に愕然とした。当たり前に側に居られるものと思っていた自分の浅い考えに、少しばかり苦笑する。「随分早いんだな。」寒さで悴んだ手を擦り合わせ、仮初めの暖をとる。風が緩やかに吹き彼女の濡羽烏のような煌めく黒髪を揺らす。長い睫毛は伏せられ、哀しげであった。「離れても、私は貴方の彼女でいて良いのでしょうか。」彼女がやっと口を開いたのは、夕陽が沈む頃だった。何と言われても反論しない、貴方の考えを兎に角聞かせて欲しいという強い目をしていた。「それは、俺が決めることだ。良いに、決まってるだろ。」半ば無理やりに、相手の手を握った。手を繋ぐだなんて言うにはまだ幼さの残る、握り方だった。俺はまだまだ子供だ。「そう、ですね。」彼女は安心したように、にっこりと笑った。

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