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しんと冷えた空気が掛け布団と身体の僅かな隙間から流れ込む。足先を撫で、足首に纏わりつき体温と同化する。いつの間に季節が巡ったのか、自分には記憶が殆ど無かった。つい最近まで、けたたましい蝉の鳴き声に舌打ちをしていたような気がする。「いい加減温かい布団にしないと、風邪引きますよ。」世間では秋も大分深まってきた頃、いつまでも薄い上掛けだけで寝ている自分にやきもきしていたのか、羽毛布団を引っ張ってくる相手を見てもうそんな時期かと少し驚いた。羽毛布団を引っ張り出す光景を見るのは、今年で何回目だろうか。くたびれた薄い上掛けを奪われ、じろりと片眉を吊り上げて相手を見やる。「こ、こっちの方が暖かいんですから、そんな顔しないで下さいよ。」昼間に干したのだろうか、思っていたよりもふんわりと軽い布団にぎゅうぎゅうに包まれた。これじゃあ寝苦しいったら無い。「別に寒く無い。」羽毛布団に埋もれて、呆れた顔をして見せる。少し身じろいで収まりの良い位置に、寝返りを打つ。空気が僅かに揺れるように、羽毛がふわりと音を立てる。「あなたは、少しだけ鈍感だから気付かないだけですよ。毎年この時期に喉風邪引いてるじゃないですか。」普段ぼうっとして見える相手が、そんな些細なことを気にかけていることに驚く。確かに喉風邪を引くのは毎年決まってこの時期であった。去年も確か花梨の蜜を溶かした牛乳を寝る前に飲むようにと、作っていたなと思い出す。「よく、覚えてるな。そんなこと。」布団にくぐもった声はそれでも相手に届いていた。にこりと何故か少しだけ誇らしげに微笑んだ相手は言った。「あなたのことは、どんなことでも覚えてますよ。」
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