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ことり、と目の前の卓に少し薄めの緑茶が入った湯飲みが置かれる。私が薄めの緑茶が、好みなのを知ってかいつもこの変わらない茶を淹れる。「お茶が入りましたよ。」食後の片付けや、諸々の家事をこなした妻と卓を挟んで座り、茶を飲む。最初の辺りは自分が茶を淹れてくれないかと頼んだのが、この習慣のきっかけだったかもしれない。会話がある日もあれば、ない日もある。幸いなことにそれが、苦痛や不安を伴わないのだ。「ありがとう。」湯飲みを掌で包み、一口。嗚呼、いつもの味だ。すっきりとした味の緑茶が、やはり好みだ。「貴方、今日は野良猫がきましたよ。」へえ、珍しいこともあるものだと雰囲気だけで返答しまた湯飲みに口をつける。妻はそれを特に咎めずに、話を続けていく。「とても綺麗な三毛猫でしてね。可愛い声で鳴くのですよ。」妻は目の前にその猫がいるかのように、嬉しそうに話す。「最近じゃ珍しいな。野良猫がまだいるのか。」ポツリと、独り言のように呟く。保健所やら何やらが多く処分したと聞いたことがあった。自分が子供の頃に比べれば、随分数は減ったのではないだろうか。「猫は強いですからね、少しのことではへこたれませんよ。」まるで猫の気持ちを代弁しているような口ぶりだった。自分は、妻がこうして空想をやや交えながら話すのを聞くのが何より好きだった。「また、来るといいなあ。」と妻は楽しみそうに、軒先に視線を向けた。空は墨色に染まり、所々に星が光っているばかりであった。
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