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たらればを語っていては仕方がない。それは重々承知。その上で語っている。あの日、君に会いたいと言わなかったら……?少なくとも、若くして事故に巻き込まれて死ぬ様なことはない。僕の我儘で僕は一番大切な人を、この世から葬り去ってしまったのだ。後悔だなんて生易しい言葉では、片付けられない。

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心を通わせることが出来たと、烏滸がましくも思ってしまった。君のことを、分かったつもりになっていた。今になって、とんだ思い上がりもいいことだと感じる。ゴミ箱に捨てられた手紙の束、電話が鳴らないようにと抜かれた電話線。鴨居に縄を掛けてぶら下がる君を見付け、ただ呆然とするばかりだった。

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お題箱より、とある一日の物語。

毎日繰り返しのような日々を送っていると、日付や曜日の感覚が徐々に無くなっていく。最後に君に会ったのは、いつだったろうか。休日の朝に、ふと君を思う。元気にしているだろうか、幸せに暮らしているだろうか。僕がこうして思うのは、大きなお世話かもしれないが、君の幸せを願わない日はないのだ。

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風がびゅうびゅうと耳元で叫ぶ。前髪が乱れ、あなたが見えにくい。声を発しようと思ったが、何を言えばいいのか分からなかった。聞きたいことも言いたいことも沢山あった筈なのに、いざ目の前にするとこれである。あなたは寂しそうに笑って、踵を返し去って行った。私はあなたを引き留められなかった。

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鐘の音が聞こえる。ラジオの放送は所々途切れる。茜色に染まった空には、烏が舞っている。彼等も巣に帰るのだろう。さあ、困った。私は帰る家が無い。暮れていく空を見て、途方に暮れているところに声を掛けられた。
「ヤア、お嬢さん。お困りの様だね?」
 胡散臭い男は、そう言うと私の目を覗き込んだ。

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此岸から幾ら彼岸を想っても、君に会うことは出来ない。君が亡くなる前に、散々僕に言い聞かせていたのは「私のことは忘れて」だった。君は僕が此処から動けなくなることを、既に知っていたのだ。病魔は容赦なく君を彼岸へと連れ去った。僕が何度名前を呼んでも、君は此岸へ戻ってくることは無かった。

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彼が死んだ。一番最初に忘れたのは、声だった。その次に忘れたのは、温もりだった。最後まで覚えていたのは、匂いだった。僕はその最後を忘れてしまうのが、とても怖かった。忘れてしまうと、僕の一部が欠けてしまうのではないかと恐怖した。彼のことを忘れたままで生きていくよりも死んだ方がマシだ。

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夜更けに想う君の事。もう寝ているだろうか。連絡するのを躊躇って、静かに床につく。静寂。秋の虫の音が、漏れ聞こえてくる。季節はいつの間にか移ろい、涼やかな風が心地良い。こんな夜は月が綺麗に見える。果たして君もその月を見ただろうか。空は繋がっているというけれど、矢張り不安は付き物だ。

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大丈夫、きっと上手くいく。まさか、失敗なんてする訳がない。何回もシュミレーションしたのだ。あなたを僕のものにするには、こうするしかないのである。僕の分とあなたの分の紅茶を用意する。右ポケットにある小瓶から、一滴想いを落とす。琥珀色の水面が波立つ。「さあ、姉さん、お茶にしましょう」

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其処は彼岸の彼方に或る街。靄に囲まれたその街は、何処にあるのか誰にも知られていない。私は其処に住んでいる。部屋には古ぼけた本や写真が散乱している。此処は彼岸。あなたと撮った写真だけは、写真立てに入れて今でも大事に飾っている。いつか、あなたが私を見付けてくれるのを今でも願っている。

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