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『絆の結び方』
・1章 はじまり_01

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 昔々あるところに、ショーンという男が住んでいました。紅茶と読書が好きな、物静かな紳士でした。ある日ショーンは闇市で、少女に出会います。少女は名前をクレアといいます。十歳程の、淡いブロンドヘアの少女でした。
「お嬢ちゃん、歳はいくつになるのかい?」
 ショーンの質問にクレアは少し困った様子でした。クレアは数字を数えることができなかったからです。商人が、十歳だと教えました。クレアは同年代の子より、うんと小さいです。
「私で良ければ、一緒に住まないかい?」
 ショーンはクレアにそう声をかけました。クレアは丸い目をぱちぱちと瞬きして、商人の顔を見上げました。
「旦那、これは返品不可ですよ」
 商人は少し訝しんで、声をかけました。
「ああ、それで構わないよ。おいくらだい?」
「金貨五枚です」
 商人に言われたとおり、ショーンは財布から金貨を取り出して渡しました。足かせがつけられていたクレアの細い足首は、こうして自由になりました。
 粗末な服を着て靴を履いていなかったクレアに、ショーンは一通りの日用品を買い揃えました。クレアは、ショーンにお礼を言います。路地裏の石畳は、ひどく冷たくクレアの足をいつも氷のようにしてしまっていました。
「気にしなくて良いんだよ」
 クレアの頭を撫でて、ショーンは優しい声で言いました。
 ショーンはクレアをおんぶして、その日は帰りました。小柄なクレアは、羽のように軽く感じられます。帰り道にクレアは色々なことを話しました。大家族の末っ子だったこと、忙しく働く両親のこと、両親の助けになりたかったこと。クレアは話をしましたが、何故自分が商人に売られたのかは分かりませんでした。クレアは闇市での生活が長くなり、少しずつ家族のことを思い出すのが難しくなってきました。最後に見た家族の姿は、ごめんなさいとクレアに謝る姿です。それも遠い昔のことのように、思い出されます。
「良かったら、私を君の家族にしておくれ」
「あなたを?」
「ああ、私で良ければね」
 ショーンは静かに言いました。クレアがどんな顔をしているのか、ショーンには分かりません。
「あなたは……家族はいないの?」
「随分前からいないよ」
 ショーンは随分と前に家族を亡くしてから、一人ぼっちでした。クレアは、それがどんなに静かであてどない生活だったか想像できません。
「おじさんは、私の家族になってどうするの?」
「君を立派な女性に育て上げるよ」
 家に帰り着いた二人は、まずクレアの部屋を決めました。お日様の光がたくさん入る、明るい部屋です。今まで、暗い闇市にいたクレアは、その光がまぶしくて目を何度か瞬きしました。
「本当にここ使っていいの?」
「いいとも」
 ショーンの家は、一人で暮らすには広く大きな家でした。しかし、どの部屋もきちんと掃除が行き届いていて、ぴかぴかと輝く窓が眩しいです。クレアが気に入ったのは、ショーンの書斎でした。そこにはたくさんの本がありました。ただ、クレアは文字を読むことができません。表紙に綺麗な星が描かれた本を、クレアは手に取りました。
「気になるかい?」
「うん」
「これはいい絵本だ。今晩、これを読もう」
 絵本を読んでもらうことは、クレアにとって久し振りのことでした。まだ字が読めないクレアは、自分で本を読むことができません。絵本を読んでもらうのは、とても好きでした。そこには、クレアの知らない世界がたくさん広がっているからです。
 この日の夕飯は、ごちそうでした。温かいスープに分厚いハンバーグをショーンは作りました。小さい子どもが好きだと前に聞いたことがありました。
「さあ、クレア。夕飯にしよう」
「わあ、おいしそう!」
 クレアはおいしそうな夕飯を前に、もじもじとしていました。綺麗に並んだナイフとフォークの、どれを使ったらいいか分からなかったのです。そんなことを言ったらまた捨てられてしまう気がして、クレアはショーンに言いだせません。ショーンは困った様子のクレアに、ナイフとフォークを手渡しました。ほっとした顔でクレアはお礼を言います。
「ありがとう」
「難しかったら、フォークから練習してごらん」
「うん」
 クレアは、分厚いハンバーグをナイフで切りました。ハンバーグからじわりと溢れる肉汁が、お皿の上に広がります。焼き目がきちんとついたハンバーグは、少し熱いですが温かい食事はとても嬉しいものです。ナイフとフォークを使う食事は久し振りでした。クレアは慣れない手つきですが、ハンバーグを食べます。
「おいしい」
「良かった。たくさんお食べ」
 温かいハンバーグにスープに、クレアのお腹はいっぱいになりました。
 ふわふわの泡がたくさん溢れるお風呂は、クレアをとても楽しませました。こんなお風呂は初めてでした。新しいタオルに新しいパジャマ、何もかもが新しくてぴかぴかして見えます。ただのお風呂もとても楽しいのです。
「髪の毛を乾かそう」
 ショーンは長く伸びたクレアの髪の毛を、タオルで優しく拭きました。淡いブロンドの髪の毛は、きらきらと光っています。こうして誰かに髪の毛を拭いてもらうことは、とても久し振りのように感じられました。最後にこういう風に髪の毛を乾かしてもらったのは、クレアが闇市に売られる前のことでした。
 約束通り、ショーンはクレアに絵本を読みました。ショーンの書斎でクレアが見つけた、星の話の絵本でした。星もいつかは輝かなくなってしまうということを、クレアは知りました。きらきら光る星しか知らなかったクレアは、星も死んでしまうと思うと悲しくなりました。輝くことができなくなった星達は、どうなってしまうのでしょうか。ずっと真っ暗な空を、宙ぶらりんのまま過ごさなくてはいけないのでしょうか。そう考えると、クレアは家族と離れ離れになってしまったことを、思い出さずにはいられませんでした。ショーンの温かい食事も、寝る前の絵本も、昔クレアの母がそうしてくれたことを思い出させました。絵本を読み終わった後、急に静かになったクレアにショーンはホットミルクを作ってくれました。温かいミルクには、砂糖が入っていて飲んでみるとほんのりと甘く感じられます。
「ありがとう」
「お安い御用だよ。今日は疲れただろう、ゆっくりとお休み」
「うん」
 少しだけ寂しい気持ちをクレアは思い出しました。ショーンといることで、家族のことを思い出すのはなんだか不思議な気持ちがします。クレアは歯磨きをして、広いベッドに寝転びました。天井がとても高く感じられます。暖かい毛布をかけて、何度か瞬きをしました。ベッドの傍にあるランプが部屋の中をオレンジ色に照らしています。暖かいベッドで眠るのは久し振りでした。この日はクレアも疲れていて、いつの間にか眠ってしまいました。小さな寝息を立てているのを見ているのは、空のお月様だけです。ぐっすりと眠っているクレアは、ショーンの秘密をまだ知りません。

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『単発』
・寒空と待ち人
・ずるい人だと思った
・生演奏を好む訳
・どこにでもいる誰か
・現実逃避
・ひしゃげた鶴
・守りたくなった他人
・戒めとして
・知らない誰か

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師走の空は低く重たい。立ち込める雲から雪が落ちてくるのは、時間の問題だろう。白い息を吐き出して、周囲を見渡しても待ち人はまだ現れない。遅れると連絡があったので承知していたけれど、慣れない土地で一人はやはり心細かった。遠くに見知った姿を見つけて、手を振る。空からは、雪が落ちてきた。

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あなたは絵が上手かった。鉛筆一本と紙を与えれば、気が済むまで絵を描く人間だった。絵が描けない僕は、一種の魔法を見せられているような心地さえしていた。色鉛筆は決まって青から小さくなった。何故だろうと話をしたことがある。海を見ても空を見ても、あなたを思い出させるためかもしれなかった。

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ピアノの旋律だけは、実に素直だと思う。毎日同じ曲を弾いても気分や機嫌で、全く異なった印象を与えるのである。そりゃあ、人間が弾いているのである。毎日毎日、同じ調子という訳にはいかないだろう。天気や季節によって、ピアノの調子も違うのだ。そこにレコードではなく、生演奏という良さがある。

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自分はとるに足らない存在だと思っている。それは今も変わらない。そんなことないよ、という言葉が聞きたい訳でもない。どこにでもいる。それが、自分なのである。元来、流されやすい性格で大小様々なことに巻き込まれてきた。最早体質と言ってもよい。できることなら、流されてもっと遠くへ行きたい。

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少しだって眠くもないくせに、酒に酔ってみたふりをする。一体、何から逃げたいのだろう。確実に来る明日、不確実な遠い未来。どちらから逃げたいのだろう。どちらからも、逃げたいのかもしれなかった。大人になるということは、思っていたよりも難しいらしい。ただ、歳を重ねてきてしまった気がする。

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‪折り紙の金色は特別だった。他とは違ってきらきらしていたそれを、大事に引き出しにしまっていた。そんなことを思い出したのは、ぐしゃぐしゃになった折り紙を見つけたからだった。いつの間に忘れてしまっていたのだろう。今更どうということもないのだけれど。ぐしゃぐしゃの折り紙で鶴を折った。‬

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