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「そろそろ寝よっか。竜也(たつや)くん、ベッド使っていいよ。僕、ソファで寝る。」
「えっ、いや、それは流石に…。僕の方が小さいから、僕がソファで寝ますよ。」
流石に、ベッドまで借りるのは悪いと思った。
「大丈夫大丈夫。」
そう言いながら、翔(かける)先輩はソファに寝床を作っている。
毛布を持ってきたり、枕を持ってきたりで忙しそうだ。
こうなった先輩の止め方を、僕はまだ知らないのでおろおろしながら見ているばかりである。
全くもって役に立たない後輩である。
「うん、出来た。」
翔(かける)先輩は、満足そうにソファで毛布に包まれている。
ソファに収まるように少し窮屈そうに、体を折り曲げていた。
「竜也(たつや)くんは、ベッドをどうぞ。」
「う、はい…。おやすみなさい。」
そうして仕方なく、先輩のベッドをお借りすることになった。
ベッドに座り、そっと羽毛布団の中に足を入れる。
暖かい。ふわりとした羽毛布団に包まれて、足先がじんわりと温まる。
「はっくしょん!」
クシャミの主は、先輩だった。
やはり、少し寒いのだろう。
少しの間、僕は考える。
変な誤解を与えてしまうだろうか?
でも、先輩なら僕の言いたいことを分かってくれるのではないだろうか。
「翔(かける)先輩、まだ起きてます?」
「うん?どうしたんだい?」
こちらを振り返る先輩の目は優しい。
この人の本質は、優しさで出来ているのだろうか。
「先輩が嫌じゃなければなんですけど、ベッド来ます?ソファよりは、暖かいと思うので…。」
少し驚いた顔をした先輩は、その後に笑った。
「はは、何かと思ったよ。いいの?お邪魔して。」
「どちらかと言うと、お邪魔しているの僕なので…。」
「良いんだね?少し窮屈になるだろうけど。」
「あ、それは全然大丈夫です…。」
そう言うと、ソファから立ち上がった先輩は一つ伸びをしてから、こちらへとやってきた。
月光に照らされた髪の毛は、艶やかで綺麗だった。
先輩が持ってきた枕を2つ並べて、ベッドを整える。
「ど、どうぞ…。」
僕はなるべく、端っこに寄って先輩に場所を譲った。
「じゃあ、お邪魔するよ。」
するりと同じ布団の中に、入ってきた。
何故か、緊張する。寝られるだろうか?
「竜也(たつや)くん、今日はありがとうね。良い気分転換になったし、色々と話してくれて嬉しかったよ。」
その声に誘われる様に、左側を見る。
先輩はガラス玉に似た目で、ゆっくり瞬きをする。少し眠そうだ。
「こちらこそ、ありがとうございます。泊めて頂いて…。」
もっと色々言いたいことはあったのだけど、こういう場面で僕は上手く言葉を紡ぐことが出来ないのだ。
手が布団の中で、僅かに触れた。
咄嗟に、すみませんと言って手を引っ込めようとしたら、手を繋がれた。
「あ、あの。」
「こうしているのは、嫌かい?」
「いや、そういう訳では…。」
急なことに、頭がついていかない。
少し体温の低い先輩の掌、細い指の節目、切り揃えられた綺麗な爪。
綺麗な手だ、と思う。
「暫くこうしていても、良いかい?」
「は、はい。」
「そんな、緊張しなくて大丈夫だよ。」
先輩はそう言って、手の甲を親指でそっと撫でる。
なんだか、不思議な心地がした。
恥ずかしいのか緊張しているだけなのか、自分でもよく分からない。
「竜也(たつや)くん、我儘言ってごめんね。」
「え、そんな、大丈夫ですよ。」
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