×
[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。
ぱたりと本を閉じる音がして、視線を上げる。満足そうに、本の表紙を見ていた。「面白かった?」一言だけ問う。少しだけ間を空けてぽつりと「まあ、それなりに…。」と何やら歯切れの悪い返事がきた。しかし「面白くない。」とは言わなかった。彼が自分の心の内を伝えるのが難しいと知っていたので、余程面白かったのだろうと想像する。彼は本を読み終わった後、頭の中の空想世界に旅立つことが度々あった。誰が話し掛けても、肩を揺すってみても、うんともすんとも言わないのだ。こちらが諦めかけて別のことをしていると、自然と空想世界から戻ってきていた。きっと読んだ本の内容を頭の中で組み立てているのだろう。「その本、私も読みたいな。」そう言うと、彼は例の本を此方へと寄越した。私は本が読みたい訳ではなく、彼のことを知りたいのだ。読み終わった後に、いつもそれを読ませて欲しいと頼む。こうしてまた彼の知らない一面を見つけていくのが、今の私にとって、かけがえのないことであった。
PR
カテゴリー
最新記事
(12/31)
(06/29)
(06/29)
(09/08)
(05/18)
カウンター
since:2016.04.30