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きらりと光る指輪が、彼女の指から零れ落ちそうになる。「大分指輪が緩くなってしまって…。」病魔により、随分とやせ細った彼女は、枯れ木のような細い指で、指輪を指の根元へと戻した。見舞いに来る度、彼女の具合が悪くなっているのが素人の自分でさえも分かった。そこからいつものように何も気付かないふりをしながら、徒然に会話を交わした。夕日が窓から差し込む時間になると彼女は決まって「いつも来てくれて、ありがとう。」夕日に照らされる彼女は、どこか現実味が無かった。「好きで来てるから、気にするな。」そう言うと彼女は、にこりと笑った。こんなに儚い笑顔はかつて見たことがなく、グッと心臓を鷲掴みされたような心地がした。

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まだ冬の寒さは残るが、幾分か陽の沈む時間が遅くなってきた。縦長に伸びている自分の影を追いかけるように、歩みを進める。街中の雑踏は、なんとなく苦手であったがそこを通らねば、駅に辿り着かないのだから致し方ない。もう二度と会うこともない人々とすれ違い、何となく溜息が出た。駅前だから人が多いのは当然だったが、自分はそれぞれの人と何も接点が無いのだ。これは何とも言えない、孤独感であった。雑踏をくぐり抜け、駅の改札を抜けて、いつものプラットホームへと向かう。何てことは無い唯の日常に感じる孤独は、影が伸びるように自分に纏わり付いて中々離れようとはしなかった。

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私は貴方から頂いたものは、何でも嬉しかったことを思い出す。一粒の金平糖でも、道端にある名前も知らない一輪の花でも嬉しいです。貴方が私の為に、選んでくれたと思うと、胸に込み上げるものがあったのです。その時の貴方の気持ちを思うと、どんな物でも嬉しいのです。

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ふと目が醒める。まだ陽が昇っていない時間帯であるため、カーテンの向こうからは街灯の光が僅かに差し込むばかりであった。台所まで、忍び足で歩きコップ半分程の水を飲み干した。そこで漸く気持ちが落ち着いた。時計の秒針の音が、妙に大きく聞こえる。ちくたくと、秒針は進むばかりである。ふうっと、溜息が知らないうちに出た。寝室へ再び忍び足で戻る。小さな寝息を立てている相手を起こさぬよう、なるべく静かに布団の中へと滑り込む。自分を探していたのか、右手がぱたぱたと布団の中で動いていた。その手を握りしめてやると、安心したのか手は探し物を止めていた。無意識だったとしても、自分を探してくれる人がいるのはとても幸せな事だと手から伝わる体温でしみじみと感じた。

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柔らかな絹糸のような髪の毛をしている。それが彼女に対しての、第一印象であった。黒髪と色白な横顔が今でも、すぐに思い出せる。正義感が強く、困っている人を放って置けない優しさが好きだった。マフラーを巻いて零れ落ちる、後頭部のふんわりとした髪の毛が可愛らしかった。今思えば、あれは恋というものだったのかもしれない。気がつけば視線で彼女を追いかけていた。彼女は今頃何をしているだろうか。幸せに暮らしていて欲しい。そして、あの澄んだ瞳であらゆる物を見ていてくれたら、自分はそれだけでも充分な程に満足感が得られる。どうか、どうか花の咲くような笑顔でいて欲しい。自分勝手かもしれないが、それが唯一の願いだった。

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ぱたりと本を閉じる音がして、視線を上げる。満足そうに、本の表紙を見ていた。「面白かった?」一言だけ問う。少しだけ間を空けてぽつりと「まあ、それなりに…。」と何やら歯切れの悪い返事がきた。しかし「面白くない。」とは言わなかった。彼が自分の心の内を伝えるのが難しいと知っていたので、余程面白かったのだろうと想像する。彼は本を読み終わった後、頭の中の空想世界に旅立つことが度々あった。誰が話し掛けても、肩を揺すってみても、うんともすんとも言わないのだ。こちらが諦めかけて別のことをしていると、自然と空想世界から戻ってきていた。きっと読んだ本の内容を頭の中で組み立てているのだろう。「その本、私も読みたいな。」そう言うと、彼は例の本を此方へと寄越した。私は本が読みたい訳ではなく、彼のことを知りたいのだ。読み終わった後に、いつもそれを読ませて欲しいと頼む。こうしてまた彼の知らない一面を見つけていくのが、今の私にとって、かけがえのないことであった。

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人と違うことを個性と言い、人と違うことをしようとすると協調性が無い奴だと言われる。個性とは如何に便利な言葉だろうか。不思議な言葉のひとつである。みんなで一緒に同じことをしなければいけない。それこそ、個性を潰してしまうように思えた。個性とは何だ。自分とは何だろう。他人とは何だろう。

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しとしと、小雨が落ちてくる。傘に当たって弾けた雨粒が、次々に傘の上を滑り落ちて雑踏に消えてゆく。信号は赤だった。道路脇のラインよりも幾分か後ろへ立つ。信号が青になり、最初の一歩を踏み出す。雑踏の騒めきがより一層聞こえるようになる。この人々にもそれぞれの人生があり、命がある。次に会うことも無いだろう。鞄を頭上に掲げて走って行く人もいた。ぽつりぽつりと鳴る傘は、雨の日にしか使えない特別な音が聞こえる。傘から滴る水滴が落ちる。まるで死んでしまうかのように見えた、少しだけ可哀想に思った。必死に傘の表面に、留まろうとしても、重力には勝てない。次々と傘にぶつかる雨粒は、命が尽きるときの音だろうか。自分の命も最期はこうして尽きるのだろうか。

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貴方が褒めてくれた髪を未だに伸ばしているのは、少し重いでしょうか。もう二度と会うことはできないけれど、それでも私はあの時貴方に言われた言葉がどれ程嬉しかったかをよく覚えています。私はどちらかと言えば直毛で線の太い、しっかりした髪の毛をしていました。しかし、あまり女の子らしくないその強い髪の毛を見て貴方は「吸い込まれそうな黒だ。他の誰にも無い色だね。」とふわり優しく微笑んで、私の髪の毛をゆっくり感触を確かめるよう撫でました。あの時は、叫び出したいほど恥ずかしかったのです。前日にもっと丁寧に髪の毛を梳かして、綺麗にしておけばよかったとあれほど後悔した日もそうありませんでした。私はまだ、髪の毛を伸ばしています。遠くの貴方を思いながら。

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鳥の鳴き声や、咲く花々により季節を感じることができるのはとても幸せなことだ。自分と外の世界を繋ぐのは、四角い窓だけであった。そこから見える雲の形や、日の時間を見て、ぼんやりと季節の変化を感じていた。とある病気で、自分は入院をしていた。どうやら珍しい症例らしく、個室を用意されていた。これは、中々悪い気はしなかった。1日のうち、点滴や採血の時間以外は、大抵は時間を持て余していた。四角い窓から見える、青空を眺めて時間を潰すようになった。なんとなく毎日眺めているだけだが、日によって同じ物は無く興味を唆られた。ふわりと浮かぶ雲や、大きな入道雲など、同じものは次の日には無いのだ。それは、とても尊い物ように思えた。

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