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無い物強請りであれこれ集めたけれど、結局私に残ったのは大量の物と薄い人間性だけだった。憧れの人の事を真似して、努力はせずに仮初めの自分を作り続けている。もう歯止めが効かない。私はいつになったら、本当の私に出会えるのだろう。本当の私とは、何だろう。こんなはずじゃなかった。こんな…。

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私の手から溢れた水の行き先は何処だろうか。下水管から浄水場へ流れ行き、川を下り行くだろう。そして、私がまだ見たことのない海へと注がれるのだろうか。広大な海で波打ち際を行ったり来たりしながら、雲となり雨となりまたこの手へと帰ってくるだろうか。私は手に溜めた水を全て零す。さようなら。

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唯一つだけ君に伝えたいことがあった。何度もタイミングはあった筈なのに、私はいつまでも、その一言を告げることができなかった。卒業式が終わりガランとした教室の中、君はただニコリと笑い「またね。」と教室から出て行った。気が付けば、自分の鞄を引っ掴み大急ぎで、君の後ろ姿を追い掛け始めた。

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自分は彼女に言われた『ありがとう』を君にきちんと返せて居ただろうか。彼女は、よく笑い他人の為に涙を流し、必要であれば自分を叱ってくれていた。自分は彼女程に良き人格者では、決して無かった。今回の事は彼女に変わって、自分に降りかかる災厄であるべきだったと握った拳に爪を立てて思う。交通事故だった。彼女は頭を地面に強く打ち、即死だったそうだ。この話を聞かされた時は、頭が真っ白になった。何も考えられなかった。ただただ、この世に彼女がいないという事実が痛い程に心を抉る。自分は彼女に何をしてやれただろうか。自分と居て、彼女は幸せを感じられていただろうか。せめて、彼女が嬉しそうに言った『ありがとう』と自分が言った回数が同じでありますようにと思った。

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自分は褒められる事が、すこぶる苦手な人間である。中肉中背で、頭も人並みなので、褒められると文面通りにその褒め言葉を受け取ることができなかった。(例え相手が本当にそう思い褒め言葉を発したとしてもだ。)その褒め言葉をしげしげと眺め『もしかしたら何か良からぬ頼み事を、されるやもしれぬぞ。』と褒め言葉をぐるりと周回し、ふむとひとつ溜息。自分はこんなに勿体無いほどの、褒め言葉を受け取って良いのだろうか。しかし、褒め言葉を発した人間を傷つけるのは言語道断である。自分の思想を押し付ける事はしたくなかったのだ。そうして「勿体無い言葉だ。ありがとう。」と乾いた声でも口角を上げて人並みに恐縮してみせる。自分は褒められる事がすこぶる苦手である。

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彼女はいつも独りであった。休み時間も、放課後も、帰る時も。いじめられている訳ではなく、授業のグループワークで、彼女に発言を求められた時は、きちんと話をしているようである。『どこのグループにも属さない、もの静かな少女』といった印象だった。そうした彼女に、話し掛ける事は勇気を必要とすることであった。放課後、下駄箱で鉢合わせた。誰もいないと思っていたので驚いた。「…何?」彼女にはそのまま立ち去るということも出来たであろうに、声を掛けられた。「ちょっとびっくりして…。」ともそもそ答える自分に彼女は「そう。」と素っ気なく答えた。「あ、あのさ!良かったら一緒に帰らない?」彼女は目を丸くした。その後少し間を置いてから彼女は答えた「いいよ。」

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くるり、と彼女が回る。花弁のようなスカートが、ひらひらと軽やかに揺れる。「私、春が好きよ。」陽光に照らされた、桜がきらりと輝く。桜から落ちる木漏れ日の元、彼女はいつもより少しはしゃいで見えた。足元を舞い落ちる桜の花弁を見つめる。あんなに綺麗であった花弁も踏みつけられれば、惨めなものであった。「春は綺麗だけど、悲しいものだね。」自分がそう言うと、彼女は少し小首を傾げた。「私は貴方と一緒に居られる春がまた迎えられたことが、嬉しいのよ?」ふふふ、と嬉しそうに笑う彼女の頭を照れ隠しでくしゃり、と撫でてやると鈴を転がすようような笑い声が響いた。桜の花弁の落ちた先の未来は、彼女は知らなくてもいいと自分は思った。

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私はこの町が嫌いだった。ひそひそと他人の噂話しか、娯楽のない、山間の谷間の町。誰の家の2階の電気が点いてるから、客がきているのではないか等と、どうでもいい知り得ない話をしては互いに互いを監視し合う。息苦しさしか感じられなかった私は、空気を求めるように都会へと出て行き、地元へ帰ることは殆ど無くなった。今もまだ、あの地には噂話しか、娯楽は無い。

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ひやりとした床板の温度に足が凍りそうになる。ふと目が覚めた真夜中、なかなか寝付けそうにないので一旦起きようとしたのだ。窓の端から月明かりが漏れ、その明かりを頼りに厚手の靴下を手繰り寄せ何とか事なきを得た。私の足は凍らずに済み、無事に廊下へ辿り着く。その日は月が随分と明るかった。廊下に伸びる影が床板から壁までのそりと這っている。この明るさでは、星はあまり見えないだろうなあと窓から覗き見る。丸い大きな月と、僅かな街灯が灯るばかりで星は然程多く見えないように感じた。この満月の光は暖かく包まれるようにも感じられるが、星明りさえも消し飛ばす冷たい孤高の光のようにも思えた。

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ジトリとした重たい空気を、打破するかどうかを思案し始めて5分程経つ。切っ掛けは些細な事だったが彼女と言い合いになってしまった。その内容は、此処では省略としよう。彼女は責めるようなことは言わなかったが、視線の動きで、まだ納得出来ていないことが分かった。部屋の時計の音がやけに大きく聞こえる。それ程に、二人して沈黙を貫いていた。「ごめん、さっきは言い過ぎた。」彼女がすこし拗ねたような様子で、小さい声で呟く。膝の上で握られた小さな拳は、まだそのままだった。「こっちも言い過ぎた。だから、おあいこだ。」そう言うと彼女は漸く此方に視線を向けた。先程よりは幾分落ち着いた様子である。冷戦は、無事に和解により終戦となった。

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