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お題箱より、とある一日の物語。

毎日繰り返しのような日々を送っていると、日付や曜日の感覚が徐々に無くなっていく。最後に君に会ったのは、いつだったろうか。休日の朝に、ふと君を思う。元気にしているだろうか、幸せに暮らしているだろうか。僕がこうして思うのは、大きなお世話かもしれないが、君の幸せを願わない日はないのだ。

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風がびゅうびゅうと耳元で叫ぶ。前髪が乱れ、あなたが見えにくい。声を発しようと思ったが、何を言えばいいのか分からなかった。聞きたいことも言いたいことも沢山あった筈なのに、いざ目の前にするとこれである。あなたは寂しそうに笑って、踵を返し去って行った。私はあなたを引き留められなかった。

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鐘の音が聞こえる。ラジオの放送は所々途切れる。茜色に染まった空には、烏が舞っている。彼等も巣に帰るのだろう。さあ、困った。私は帰る家が無い。暮れていく空を見て、途方に暮れているところに声を掛けられた。
「ヤア、お嬢さん。お困りの様だね?」
 胡散臭い男は、そう言うと私の目を覗き込んだ。

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此岸から幾ら彼岸を想っても、君に会うことは出来ない。君が亡くなる前に、散々僕に言い聞かせていたのは「私のことは忘れて」だった。君は僕が此処から動けなくなることを、既に知っていたのだ。病魔は容赦なく君を彼岸へと連れ去った。僕が何度名前を呼んでも、君は此岸へ戻ってくることは無かった。

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彼が死んだ。一番最初に忘れたのは、声だった。その次に忘れたのは、温もりだった。最後まで覚えていたのは、匂いだった。僕はその最後を忘れてしまうのが、とても怖かった。忘れてしまうと、僕の一部が欠けてしまうのではないかと恐怖した。彼のことを忘れたままで生きていくよりも死んだ方がマシだ。

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夜更けに想う君の事。もう寝ているだろうか。連絡するのを躊躇って、静かに床につく。静寂。秋の虫の音が、漏れ聞こえてくる。季節はいつの間にか移ろい、涼やかな風が心地良い。こんな夜は月が綺麗に見える。果たして君もその月を見ただろうか。空は繋がっているというけれど、矢張り不安は付き物だ。

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大丈夫、きっと上手くいく。まさか、失敗なんてする訳がない。何回もシュミレーションしたのだ。あなたを僕のものにするには、こうするしかないのである。僕の分とあなたの分の紅茶を用意する。右ポケットにある小瓶から、一滴想いを落とす。琥珀色の水面が波立つ。「さあ、姉さん、お茶にしましょう」

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其処は彼岸の彼方に或る街。靄に囲まれたその街は、何処にあるのか誰にも知られていない。私は其処に住んでいる。部屋には古ぼけた本や写真が散乱している。此処は彼岸。あなたと撮った写真だけは、写真立てに入れて今でも大事に飾っている。いつか、あなたが私を見付けてくれるのを今でも願っている。

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呼吸をすることに、罪悪感を抱く様になったのはいつからだろうか。気が付いたら真昼の街を歩くのに、日陰を探すようになっていた。表通りよりも、薄暗い裏道を好む様になったのはいつからだろうか。自分自身を表現するのに、日陰者だと思う様になったのはいつからだろうか。今では、もう思い出せない。

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お題:僕がこの世界にいなければ

僕がこの世界にいなければ、こんなことは起こらなかった。家族や友人や彼女を、傷付けることなんてなかった。僕は人間じゃなかった。人間のなり損ないだ。それでも、皆これまでと変わらずに接してくれる。それが、嬉しくもあり無理をさせているのではと心配で仕方なかった。僕がこの世界にいなければ。

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