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お題:紫陽花

とうとう梅雨入りし、傘が手放せない日々が続いている。朝は晴れていても、夕刻には雨雲が立ち込める事がよくあった。私はその度に、少し憂鬱な気持ちになりながら、折り畳み傘を鞄から取り出す。濃い青色をした折り畳み傘は、以前母親から贈られたものだ。落ち着いた色合いが私にはまだ大人っぽく感じられて、この傘を手にする時は背筋が伸びる思いだった。ぽつぽつと傘に落ちる雨音を聞きながら、自宅へと足早に歩く。アスファルトには小さな水溜りが出来ていて、ひとつふたつと数えながら避けて歩いた。信号の光も、車のヘッドライトの光も、少し滲んで見える様な気がした。雨は世界の境界を滲ませ、曖昧にさせる。

いつつめの水溜りに、濃い紫色が映り込んでいるのを見てふと顔を上げる。近所の公園の入り口にある紫陽花である。濃い紫色に、雨の雫を乗せてさながらダイヤモンドが、輝いている様であった。そう言えば、と手持ちの折り畳み傘に目を向ける。こちらは濃い青色をしていた。どことなく紫陽花らしい色合いで、私は久し振りに憂鬱な気持ちが霧散するのを感じた。暫く紫陽花を眺めて、帰路の途中だった事を思い出しその場から歩き出す。足取りは自然と軽くなっていた。

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【登場人物】
■桐ヶ谷 聡史(きりがや さとし)
高校2年生の17歳。誕生日は4月4日。趣味は読書。サスペンス物が好き。得意な教科は、数学と科学。苦手な教科は、英語。部活は中学卒業時までは野球部であったが、肘の故障もあり高校では帰宅部である。本を読む事は好きだが、自分で書くのは苦手なため、文芸部などには入らなかった。友達は多い方ではないが、苛められる事も無い絶妙な立ち位置になっている。頭の中で考えている事が、たまに口から出ている事があり友人にそれを指摘されることもしばしばある。性格はかなり慎重派。事前に調べたりしないと、なかなか重い腰が上がらない。その為、優柔不断と言われることもある。高校最寄り駅から5駅分離れた場所に、家がある。家族構成は、父・母・聡史・妹となっている。

■松井 美咲(まつい みさき)
高校2年生の16歳。誕生日は11月8日。音楽を聴いたり、ファッション雑誌を見たりと、至って普通の女子高生らしい趣味である。得意な教科は、強いて言えば英語。理数系は苦手である。中学では、バレー部にだったが、高校からチアリーディング部に所属している。学校では同じチア部員達と、行動する事が多い。サッパリした性格だが、間違っている事や曲がった事が嫌いなタイプ。性格がキツイと思われがちで、チア部員以外のクラスメイトからは、話し掛け難いと思われている。学校までは自転車通学をしており、片道大体10分前後。家族構成は、父・母・祖母・兄・美咲、となっている。

■篠原 愛奈(しのはら あいな)
高校2年生の17歳。誕生日は8月22日。美咲と同じチアリーディング部に所属している。聡史の事は顔は知っているが、話した事が無いので美咲が仲良さそうにしているのを不思議がっていた。趣味はネイルアートだが、校則でネイルは出来ないのでネイルチップを作ったりしている。中学時代は陸上(中距離)をしていた。美咲とは中学時代からの、友達で互いに親友と呼べる仲である。性格は陽気な方だが、初対面の相手とは上手く話せないタイプ。仲良くなると徐々に、甘えてくる。学校までは自転車通学をしており、片道大体15分弱。家族構成は、父・母・姉・愛奈、となっている。

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「なんで、そこで笑うのよー。」美咲は愛奈の脇腹をくすぐった。愛奈は笑いながら、ごめんごめんと謝る。「桐ヶ谷って結構話す方?」と美咲は昨日の事を思い出す。「どうだろう…。思っていたより話してくれるよ?」美咲は聡史との会話を、断片的に思い出しながら考える。聡史は優しいよ、と思い至る。

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「美咲って、桐ヶ谷と仲良いの?」同じチア部であり友人の、愛奈(あいな)が不思議そうな顔をしていた。「この間日直一緒だったから、友達になった。」そう言うと愛奈は、そういう所は美咲らしいよねえと笑った。「桐ヶ谷ってちょっと怖いイメージあったけど、全然そんな事無かった。」と美咲は呟く。

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『単発』
・「責任者」1本追加

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『単発』
・「雨色の憂鬱」1本追加

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誰の所為でもない、という風に慰める人間の気が知れないと思う。事故でも事件でも、責任は一人の人間にある筈なのだ。

コンクリートをぬらぬらと赤い液が流れているのを見て、辺りの血生臭いような鉄のような匂いに溜息を吐く。野次馬のざわめきからは、今しがた起こったこの事故の状況が断片的に聞き取れた。子供が飛び出してきて車が止まり切れなかった、という事故らしい。子供は赤信号と気付かずに車道へと出てきたようで、青信号で直進してきた車に轢かれたのだ。真っ赤な血溜まりに浮かぶ子供の体は、車体の下に潜り込み手足がおかしな方向に曲がっている。これは助からないだろうな、頭の中で独り言のように言葉が浮かぶ。運転手は軽傷で済んだらしく青ざめた顔をして、べっこりへこんだ車体を見つめていた。子供の母親だろうか、車体の近くで泣き崩れている女が居る。誰かが通報したのか警察車両や救急車がやってきた。こういう光景を実際に目の当たりにしたのは、初めてのことだ。辺りがこの事故の関係者や、警官ばかりになってくると野次馬は少しずつ散り散りになっていく。母親は未だ泣き叫んでおり車を運転していた男に、何かを言っていた。その運転手の男は母親の声が聞こえていないようで、赤くなった自分のシャツをぎゅっと握ったまま動かない。男には轢いた子供を助けようという意思はあったのだ。衝撃音の後、すぐに男が慌てて車から飛び出して車体の下を覗き込んでいるのを、自分は見ていた。だが、子供は車体に引っ掛かっているようで、引き摺り出すことが出来なかったのだ。近くに居た人間が男に声を掛け、一緒に子供を引っ張っていたが結果は同じだった。母親も子供の血に塗れながら地面に這うようにして、子供に声を掛け続けていた。それを自分はただ傍観していたのだ。ある程度この事故の今後の予測もついたので、イヤホンを耳に嵌め込み野次馬の群れから抜け出す。恐らく子供は助からないだろう。あれだけの出血をしていれば、ショック死もあり得そうだ。例え助かったとしても、身体や脳へのダメージは残るだろう。これだけの事故なら夜のニュースで、少しは流れるだろうか。MP3プレーヤーの再生ボタンを押して、流れ始めた音楽に意識がいく。

今回の事故は誰の所為だろうか。飛び出した子供か、車の運転手か、轢かれた子供の母親か。
それとも、子供が飛び出してくる段階から一部始終傍観していた、自分か。

(誰の所為でもない、なんて言うなよ。)

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冷たい冬の空気を更に冷やすように、空から雨が落ちる。空気を冷やし、コンクリートを色濃く浸食していく様子を教室の窓から見ていた。
空を覆う雲は濃い灰色に染まり、町全体を包み込んでしまいそうだ。

「降ってきたんだ。」

ひょいと隣に現れて、いつもの笑顔を浮かべる。傘持ってきてないんだよなあ、と溜息を吐くその姿を見ながら濡れて帰れと返す。すっかり濃く濡れた校庭や、その先にある道路を見つめる。雨に霞む遠くの家の屋根を見てやはり雨は嫌だなと思う。アルミサッシを指で撫でながら外気との気温差を思って憂鬱になった。指先からじわりじわりと冷える感覚に、軽く身震いしてから手を引っ込める。

「一緒帰ろうよ。」
「…傘には、いれないから。」

ああ、雨は嫌だ。こいつの魂胆は目に見えているから、余計に嫌だ。雨の日の帰りのホームルームが終わった後に、必ず声を掛けてくるこいつが気に食わない。今時相合傘をしたいだなんていう男子はこれまで出会わなかった。明確に言葉として言われたことはないが、この男は態度や声色でそれとなく訴えかけてくるのだ。気付いて欲しいとでも淡い期待を持っているのだろうか。全くもって図々しいこと、この上ない。気付いて欲しいだなんて愛の押し売りにすぎない。

ああ、雨は嫌だ。
私はこいつがロッカーに折り畳み傘を隠し持っていることを知っている。

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『何気ない高校生活』
・「知人以上、親友未満」1本追加

『単発』
・「真夜中の訪問者」1本追加

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「じゃあ、また明日ね〜。」帰りのホームルームが終わると、美咲は部活へと向かった。読んでいた文庫本に挟んだ栞の位置を確認して、カバンの中へとしまう。今週中には、読み終わりそうだな。「桐ヶ谷って、松井と仲良いの?」前の席に座っている男子から不思議そうに聞かれた。「んー、友達なんだ。」

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