roika_works 【単発】責任者 忍者ブログ
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誰の所為でもない、という風に慰める人間の気が知れないと思う。事故でも事件でも、責任は一人の人間にある筈なのだ。

コンクリートをぬらぬらと赤い液が流れているのを見て、辺りの血生臭いような鉄のような匂いに溜息を吐く。野次馬のざわめきからは、今しがた起こったこの事故の状況が断片的に聞き取れた。子供が飛び出してきて車が止まり切れなかった、という事故らしい。子供は赤信号と気付かずに車道へと出てきたようで、青信号で直進してきた車に轢かれたのだ。真っ赤な血溜まりに浮かぶ子供の体は、車体の下に潜り込み手足がおかしな方向に曲がっている。これは助からないだろうな、頭の中で独り言のように言葉が浮かぶ。運転手は軽傷で済んだらしく青ざめた顔をして、べっこりへこんだ車体を見つめていた。子供の母親だろうか、車体の近くで泣き崩れている女が居る。誰かが通報したのか警察車両や救急車がやってきた。こういう光景を実際に目の当たりにしたのは、初めてのことだ。辺りがこの事故の関係者や、警官ばかりになってくると野次馬は少しずつ散り散りになっていく。母親は未だ泣き叫んでおり車を運転していた男に、何かを言っていた。その運転手の男は母親の声が聞こえていないようで、赤くなった自分のシャツをぎゅっと握ったまま動かない。男には轢いた子供を助けようという意思はあったのだ。衝撃音の後、すぐに男が慌てて車から飛び出して車体の下を覗き込んでいるのを、自分は見ていた。だが、子供は車体に引っ掛かっているようで、引き摺り出すことが出来なかったのだ。近くに居た人間が男に声を掛け、一緒に子供を引っ張っていたが結果は同じだった。母親も子供の血に塗れながら地面に這うようにして、子供に声を掛け続けていた。それを自分はただ傍観していたのだ。ある程度この事故の今後の予測もついたので、イヤホンを耳に嵌め込み野次馬の群れから抜け出す。恐らく子供は助からないだろう。あれだけの出血をしていれば、ショック死もあり得そうだ。例え助かったとしても、身体や脳へのダメージは残るだろう。これだけの事故なら夜のニュースで、少しは流れるだろうか。MP3プレーヤーの再生ボタンを押して、流れ始めた音楽に意識がいく。

今回の事故は誰の所為だろうか。飛び出した子供か、車の運転手か、轢かれた子供の母親か。
それとも、子供が飛び出してくる段階から一部始終傍観していた、自分か。

(誰の所為でもない、なんて言うなよ。)

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