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『発行情報』
・「ありがとうを込めて」削除(有効期間切れの為)

『宴は満月の夜に』
・「一欠片の真実」追加

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古地図と巻物を読み進めても、前回検めた時と得られる情報は同じであった。
暦と月の見え方からも、調べる必要がありそうだ。
狐浄は文机に山の様に書類を積み重ねつつ、月の暦を探す。
月の暦には、月の満ち欠けが暦と共に記されているものである。
巻物を畳みへ広げ、手に持った月の暦を見ながら丁寧に読み進める。
そして、漸く一つの真実を掴んだ。
「新月の日か…。」
今年に入って反転してきた人間は、全て新月の日に現れている。
漸く共通点を見つけ出した狐浄は、その共通点と日にちと反転した人間の名を紙にしたためた。
新月の日は稲荷の力が弱まり、満月へ向けて稲荷の力が強まる。
新月の日であれば、結界を破る事も不可能では無い筈だ。
そして、その結界を破り修復しているのは、稲荷以外の妖(あやかし)という事になる。

「狐浄、その後はどう?」
境内から呼び掛ける、凛狐に目で此方へ来いと訴える。
それが通じ、凛狐は狐浄の側へとやってきた。
「何か見つけ出した顔をしているね。」
「まあな。実に単純な事で、少し驚いた位だ。」
凛狐は、狐浄が共通点と人間の名をまとめていた紙に目を通す。
「稲荷の仕業では、無さそうね。」
「ああ。身内じゃなくて良かったけど、犯人探しは苦労するぜ、これ。」
溜息をつく狐浄に、凛狐はそうねえ、と同じく小さな溜息をつく。
「狐幻の守様へ見せた方が良いわね。」
「ああ、そのつもりだ。」
狐浄は、書簡を折り畳み凛狐へと手渡した。
「俺は資料整理して、後から行くから、先に渡しておいて貰えないか?」
「その位、お安い御用よ。早く来なさいね。」
凛狐は、胸元へ書簡をしまい神社を後にした。
からんころんと下駄の音が響いた。
必要な資料をまとめ月の暦を持ち、狐浄も狐幻の守の元へと急いだ。

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『宴は満月の夜に』
・「ほつれる糸」追加

『単発』
・「後悔の波」追加

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「誰かが結界を破ってるとしか、思えないな。」
「そんなまさか。人間に可能なのでしょうか。」
昨日、反転した人間がいたという事で、この地区を纏める区長へ狐浄は、報告と今後の対策について話をする為、地区で一番大きな神社へと訪れていた。
此処の地区を治める、最も力が強い稲荷である。名を狐幻の守(こげんのかみ)という。
狐浄は驚いた。結界が破られたら、自分が一番に気が付く筈だ。
一度破った結界を、元通りにしてその存在を消す事は並大抵の事では無い。
「此方の対策がまるで相手に筒抜けになっている様なのです。」
「成る程。反転してきた人間の特徴も接点が無いとなると。対策が後手後手になってしまうな。」
「今、正にその状況でして…。」
「反転した人間についてもう一度確認してみなさい。その者達が住まう家に、何かあるのかもしれない。後は何処の結界が破られたかだ。人間が現れた場所に、札を貼り其処の結界を強化して、様子を見よう。」
「はい、かしこまりました。」
狐浄は深く礼をし、狐幻の守の神社を後にした。
意見を貰った通り、人間が反転して現れた階段、境内の木等に札を貼り其処の結界を更に強化した。
「こんなもんかな…。」
その後は、報告書とは別に狐浄自身が記録をつけている、巻物に目を通す。
古地図と照らし合わせて、反転した人間の家がある土地柄や家系についても、細かく調べる必要がある。
これは難儀な作業だ。
しかし、これ以上人間が反転しない様にする為には必須の作業である。
狐浄は、巻物と古地図を畳の上に広げて、見落としが無いかを丁寧に確認していく。

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たった一秒の事で、世界はあっという間に変わってしまう。咄嗟にでも手を引っ張っていたら、あの道を通らなければ、前日に一緒に帰る約束をしなければ。あの人は死ぬ事は、なかったのだ。背筋が凍りつき、ただただ呆然と車道を見る事しか出来なかった。慌てて駆け寄っても、何も反応は無かった。ぬめりとした赤い液体が、アスファルトに染み込んでいく。こんなのは、嘘だ。あってはならない出来事だ。こんな事は…。あの人ではなく、私だったら良かったのに。

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『宴は満月の夜に』
・「接点探し」追加

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「ただいま。」
不思議な体験をした麗花は、少しぼうっとしたまま帰宅した。今まで何度もあの神社へ通っていたが、こんな事は初めてだ。
「おかえりなさい、もうすぐ夕飯出来るわよ。」
母の声を聞きながら、二階の自室へと向かう。制服から、部屋着へと着替えながら、先程の男性の事を思い出していた。どうも人間らしくない風貌だった。肩より長い髪の毛は、月の色の様だった。紫色がかった瞳は、とても澄んでいた。名前を聞かれた麗花は、相手の名前を聞けば良かったと思った。
「れーいーかー!ご飯よ!」
「はーい!」
部屋でぼんやり考え事をしていたところ、母に呼ばれて一階のダイニングへと向かう。夕飯はどうやらカレーライスの様だ。母のカレーライスは、一級品だ。麗花の好物のうちの一つである。
「お父さんは?」
食卓につき、母に問う。
「今日は会社の飲み会なんですって。」
「ふーん。」
家族で揃って夕飯を食べる事が習慣となっていたので、なんとなく違和感があった。
「お母さんって、霊感あったりする?」
「ええ?無いわよ。」
「だよねえ…。私もだけど。」
突拍子も無い質問に、母は驚いていたようだ。麗花は今日体験した事について、何か自分の家系にヒントがあるのかと思い母に問うた訳だ。しかし、家系には特別な事は無さそうだった。麗花自身も、今日迄そういった体験をしたく無かった。
「何かあったの?」
母は心配そうに、麗花に声を掛ける。
「ううん、何も無いよ。」
「それなら良いけど…。」
それ以上、母は追求してこなかった。麗花はカレーライスを、ぱくりと一口。うん、今日も美味しい。

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『宴は満月の夜に』
・「反転」、「忍び寄る違和感」追加

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「幾ら何でも、今年に入ってから多過ぎる。」
銀髪の前髪の隙間から見える紫色の目は、何かを疑った眼差しである。片手に持った書簡を広げる。
『稲荷神社にて、反転する人間多し。至急、調査されたし。』
これ迄は、反転し此方の世界へ迷い込む人間は年に二〜三人程度だった。それが今年に入ってから、急に増えたのだ。半年あまりで、五人を超えている。月に一度は、人間が反転している計算になる。これは今迄無かった事だ。
「調査されたし…ってもなあ。」
結界は破られていない。念の為、二重に掛けた。それでも効果はあまり得られていない様だ。反転した人間の共通点も、無かった。サラリーマン、学生、子供、とバラバラであった。彼等の家の位置が、特別な霊道の上にある訳でも無かった。古地図と、この神社の位置を改めて眺める。今迄の仕事よりは、長引くだろうなと溜息を吐く。
この銀髪の男、名は狐浄(こじょう)と言う。反転世界に人間が迷い込んだら、元の世界に帰す役割を担っている。この稲荷神社に祀られている稲荷である。
「なあに、シケた顔してるんだい。」
その声に顔を上げる。同じく銀髪であるが此方は女性である。腰まである長い髪の毛先を結び、袴姿である。
「なんだ、澟狐(りんこ)か。また今日も、反転した人間が来た。」
「…多過ぎるわね。何が起こっているのかしら。」
何か普通では無い事が起こっているのは確かだ。二重の結界を歪ませて迄、此方の世界へ反転するという事は並大抵の事では無いのだ。
「何かキナ臭いんだよなあ。」
「この神社だけってのも、可笑しな話よね。」
人間が反転して迷い込んだ場合は、報告書を提出せねばならない。迷い込んだ人間の名前と特徴、古地図と照らし合わせて土地柄を書き込む。
「澟狐、悪いな。これ頼むわ。」
「はいはい、早いご報告助かるわ。」
報告書の書簡を、澟狐に手渡す。澟狐はそれを胸元にしまい、それじゃあまたと、神社を後にした。彼女の役割は、各神社に反転が起こった場合の、報告書の回収と検閲である。
「ったく、何が起こっているんだ。」
自分が祀られている神社だというのに、具体的な改善案が出せない自分に、狐浄はやきもきしていた。

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帰り道に、神社の境内で涼んでから帰るのが日課になっている。いつ頃からそうしていたのかは、定かでは無い。家の近所にあるこの神社は、気持ちを落ち着かせる事が出来る数少ない場所のひとつだった。木々が風に揺れる音や、鳥の声を聞きながら私は境内に設置してあるベンチで本を読んでいた。一区切りついたので、そろそろ家へ帰ろうかと鞄を持ち神社を後にする。神社から歩道に伸びる階段を一段踏み外した。反射的に、目を瞑って顔を腕で覆った。しかし、想像していた痛みは一向にやって来ない。不思議に思い、目をそっと開ける。場所は神社だが、何かがおかしい。無音なのだ。先程迄聞こえていた、風や鳥の鳴き声が一切聞こえない。そして、誰も人が見当たらなかった。車も同様である。
「おい、お前何処から来た。」
不意に声を掛けられて、後ろを振り向くとそこには見知らぬ男性が居た。銀色の髪の毛に紫を帯びた瞳をしている。何処か現実味の無い人物だった。
「何処と言われても…、この神社です。」
そう言うと、男性は溜息を吐いた。何だろう気に触る様な事を言ってしまっただろうか。でも、嘘は吐いていない。
「反転か。今年で何人目だよ。」
「え?」
独り言の様に呟いたその男性は、此方を見る。
「お前、名は?」
「澤野 麗花(さわの れいか)です。」
「階段気を付けろよ。」
此方へ伸びた男性の右手が、眉間に触れた。その途端に私は元の神社へと戻っていた。風の音も鳥の声も聞こえる。歩道には、歩行者がいる。車通りもある。あれは、何処だったのだろう。耳鳴りがする様に静かな場所だった。そして、あの男性は誰だったのだろう。注意して階段を降り、後ろを振り返る。そこにはいつもと変わらぬ神社があるばかりだった。

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