roika_works 【宴は満月の夜に】反転 忍者ブログ
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帰り道に、神社の境内で涼んでから帰るのが日課になっている。いつ頃からそうしていたのかは、定かでは無い。家の近所にあるこの神社は、気持ちを落ち着かせる事が出来る数少ない場所のひとつだった。木々が風に揺れる音や、鳥の声を聞きながら私は境内に設置してあるベンチで本を読んでいた。一区切りついたので、そろそろ家へ帰ろうかと鞄を持ち神社を後にする。神社から歩道に伸びる階段を一段踏み外した。反射的に、目を瞑って顔を腕で覆った。しかし、想像していた痛みは一向にやって来ない。不思議に思い、目をそっと開ける。場所は神社だが、何かがおかしい。無音なのだ。先程迄聞こえていた、風や鳥の鳴き声が一切聞こえない。そして、誰も人が見当たらなかった。車も同様である。
「おい、お前何処から来た。」
不意に声を掛けられて、後ろを振り向くとそこには見知らぬ男性が居た。銀色の髪の毛に紫を帯びた瞳をしている。何処か現実味の無い人物だった。
「何処と言われても…、この神社です。」
そう言うと、男性は溜息を吐いた。何だろう気に触る様な事を言ってしまっただろうか。でも、嘘は吐いていない。
「反転か。今年で何人目だよ。」
「え?」
独り言の様に呟いたその男性は、此方を見る。
「お前、名は?」
「澤野 麗花(さわの れいか)です。」
「階段気を付けろよ。」
此方へ伸びた男性の右手が、眉間に触れた。その途端に私は元の神社へと戻っていた。風の音も鳥の声も聞こえる。歩道には、歩行者がいる。車通りもある。あれは、何処だったのだろう。耳鳴りがする様に静かな場所だった。そして、あの男性は誰だったのだろう。注意して階段を降り、後ろを振り返る。そこにはいつもと変わらぬ神社があるばかりだった。

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