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「幾ら何でも、今年に入ってから多過ぎる。」
銀髪の前髪の隙間から見える紫色の目は、何かを疑った眼差しである。片手に持った書簡を広げる。
『稲荷神社にて、反転する人間多し。至急、調査されたし。』
これ迄は、反転し此方の世界へ迷い込む人間は年に二〜三人程度だった。それが今年に入ってから、急に増えたのだ。半年あまりで、五人を超えている。月に一度は、人間が反転している計算になる。これは今迄無かった事だ。
「調査されたし…ってもなあ。」
結界は破られていない。念の為、二重に掛けた。それでも効果はあまり得られていない様だ。反転した人間の共通点も、無かった。サラリーマン、学生、子供、とバラバラであった。彼等の家の位置が、特別な霊道の上にある訳でも無かった。古地図と、この神社の位置を改めて眺める。今迄の仕事よりは、長引くだろうなと溜息を吐く。
この銀髪の男、名は狐浄(こじょう)と言う。反転世界に人間が迷い込んだら、元の世界に帰す役割を担っている。この稲荷神社に祀られている稲荷である。
「なあに、シケた顔してるんだい。」
その声に顔を上げる。同じく銀髪であるが此方は女性である。腰まである長い髪の毛先を結び、袴姿である。
「なんだ、澟狐(りんこ)か。また今日も、反転した人間が来た。」
「…多過ぎるわね。何が起こっているのかしら。」
何か普通では無い事が起こっているのは確かだ。二重の結界を歪ませて迄、此方の世界へ反転するという事は並大抵の事では無いのだ。
「何かキナ臭いんだよなあ。」
「この神社だけってのも、可笑しな話よね。」
人間が反転して迷い込んだ場合は、報告書を提出せねばならない。迷い込んだ人間の名前と特徴、古地図と照らし合わせて土地柄を書き込む。
「澟狐、悪いな。これ頼むわ。」
「はいはい、早いご報告助かるわ。」
報告書の書簡を、澟狐に手渡す。澟狐はそれを胸元にしまい、それじゃあまたと、神社を後にした。彼女の役割は、各神社に反転が起こった場合の、報告書の回収と検閲である。
「ったく、何が起こっているんだ。」
自分が祀られている神社だというのに、具体的な改善案が出せない自分に、狐浄はやきもきしていた。
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