roika_works 宴は満月の夜に 忍者ブログ
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そこで、麗花(れいか)は今日の一連の流れを、を狐浄(こじょう)に説明した。
親友に話しをして、2人で神社へ行こうということになり、神社へ来たこと。
一瞬、足首に赤目に白蛇が巻きついていたこと。
此方の世界に来た時に、睡蓮が札を渡し麗花の姿を隠してくれたこと。
2人の男性らしき物の怪が、神社内で麗花を探し回って他の場所に探しに行ったこと。
特に、2人の特徴は事細かく説明をした。
麗花が話しをしている間は、狐浄も凛狐(りんこ)も口を挟まなかった。
時間は掛かったが、麗花が知り得ることを全て話した。
「それで全部か?」
狐浄は、自分の額に手を置き溜息を吐いた。
「はい。そうです。」
深く頷いて、麗花はそう告げた。
「厄介なことになりそうだね、狐浄?」
凛狐もいつになく真剣な表情で、狐浄に問うた。
「ああ、厄介も厄介。まさか、龍神と蛇の目が手を組むとはな…。」
2人が話している内容がよく分からない麗花は、静かに黙っていた。
その様子に気が付いた凛狐は、麗花の肩に手を置き目線が同じ高さになるまで屈んだ。
「麗花ちゃんが悪い訳じゃないから、気落ちする必要は無いよ。」
「はい…。でも、ご迷惑をお掛けしてしまったのでは…?」
「まあ、お前さんが狙いだったのは確かだろう。何か心当たりはあるか?」
困った顔をする麗花に、狐浄は言う。
「いえ、何も…。」
「過去に川や海で、何かなかったか?」
「綺麗な石や貝殻を集めるのが好きで、持ち帰ったことなら何度か…。」
「そうか。そういった人間は、お前さん以外にも多くいるから、それが理由とはならないかもな。」
狐浄はそう言い赤く染まった空を見上げる。雲ひとつない、血の様に赤い空を。
「私は一旦、狐幻の守(こげんのかみ)様へ報告に行ってくるわ。」
「ああ、頼む。書簡は明日中に、俺が直接持って行く。」
「了解。それじゃあね。麗花ちゃんの話、聞いてやりなさいよ。」
「ったく。分かってるつーの。」
溜息を1つ吐いて、狐浄は凛孤に答えた。
「それなら良いわ。麗花ちゃん、またね。」
「はい。」
睡蓮を連れて凛孤は、神社を後にした。
なんとなく気まずい沈黙が流れる。
「お前さんが見た白蛇は、俺達と敵対している集団の象徴だ。」
「そうなんですか…。」
「奴等は、この世界を破壊して再構成するつもりだ。その為に、人間の反転が多くなっている。反転が立て続けに起こると、世界に揺らぎが発生しやすくなる。その揺らぎを最大限利用して、この世界を潰すつもりだ。」
「それは…。人間の世界にも影響が出るのですか?」
「まあ、多少なりともあるだろうな。どの程度の影響が出るのか、まだ俺でも分からんが。」
大層な話になり、麗花は孤浄の話についていくのがやっとだった。
その反転とやらが鍵となっており、自分が反転してこの世界へとやってきたのは分かった。
「お前さんは、反転しやすいのだろうな。澤野だろ?姓に水が関連しているから、龍神がこちらに引き込みやすいんだろうと思う。仮説だけどな。」
そう言って孤浄は麗花の様子を伺う。やはり、申し訳なさそうな顔をしたまま、手をぎゅっと握り締めたままだった。
「お前さんは悪くない。利用しようとしている奴等が悪いんだ。」
「はい…。」
「全面戦争とまではいかなくても、彼方此方で小競り合いが起こる筈だ。お前さんは、人間界に戻る方が良いだろう。」
「何も出来なくて、ごめんなさい。」
麗花はそう言うとぽつりと涙を溢した。この世界の揺らぎを増幅させてしまったのは、紛れも無く麗花の反転の影響もあるからだ。
ぽつりぽつりと零れる涙が、制服のスカートに濃く染みを作っていた。
何も出来ず、ただ元の世界に帰ることが、麗花は悔しかった。
ただ、この世界で麗花は無力だった。何も出来ないのは、重々分かっていた。
「私を囮にして、例の2人組みを此処へ呼び戻すことは可能ですか?」
「やろうと思えば出来るだろう。しかし、お前さんへ危害を加える可能性が高い。却下だ。」
「私、このままじゃ帰れません。」
「そんなこと言ってどうする。お前さんは、人間世界に戻って暮らした方が、安全だ。」
「嫌です。帰りません。」
麗花は頬を伝っていた涙を、制服の袖で拭って孤浄の目を見てそう伝えた。
意志を持った目は孤浄の目を射抜いていた。それ程に、麗花は覚悟を決めていたのだ。そこで、麗花(れいか)は今日の一連の流れを、を狐浄(こじょう)に説明した。
親友に話しをして、2人で神社へ行こうということになり、神社へ来たこと。
一瞬、足首に赤目に白蛇が巻きついていたこと。
此方の世界に来た時に、睡蓮が札を渡し麗花の姿を隠してくれたこと。
2人の男性らしき物の怪が、神社内で麗花を探し回って他の場所に探しに行ったこと。
特に、2人の特徴は事細かく説明をした。
麗花が話しをしている間は、狐浄も凛狐(りんこ)も口を挟まなかった。
時間は掛かったが、麗花が知り得ることを全て話した。
「それで全部か?」
狐浄は、自分の額に手を置き溜息を吐いた。
「はい。そうです。」
深く頷いて、麗花はそう告げた。
「厄介なことになりそうだね、狐浄?」
凛狐もいつになく真剣な表情で、狐浄に問うた。
「ああ、厄介も厄介。まさか、龍神と蛇の目が手を組むとはな…。」
2人が話している内容がよく分からない麗花は、静かに黙っていた。
その様子に気が付いた凛狐は、麗花の肩に手を置き目線が同じ高さになるまで屈んだ。
「麗花ちゃんが悪い訳じゃないから、気落ちする必要は無いよ。」
「はい…。でも、ご迷惑をお掛けしてしまったのでは…?」
「まあ、お前さんが狙いだったのは確かだろう。何か心当たりはあるか?」
困った顔をする麗花に、狐浄は言う。
「いえ、何も…。」
「過去に川や海で、何かなかったか?」
「綺麗な石や貝殻を集めるのが好きで、持ち帰ったことなら何度か…。」
「そうか。そういった人間は、お前さん以外にも多くいるから、それが理由とはならないかもな。」
狐浄はそう言い赤く染まった空を見上げる。雲ひとつない、血の様に赤い空を。
「私は一旦、狐幻の守(こげんのかみ)様へ報告に行ってくるわ。」
「ああ、頼む。書簡は明日中に、俺が直接持って行く。」
「了解。それじゃあね。麗花ちゃんの話、聞いてやりなさいよ。」
「ったく。分かってるつーの。」
溜息を1つ吐いて、狐浄は凛孤に答えた。
「それなら良いわ。麗花ちゃん、またね。」
「はい。」
睡蓮を連れて凛孤は、神社を後にした。
なんとなく気まずい沈黙が流れる。
「お前さんが見た白蛇は、俺達と敵対している集団の象徴だ。」
「そうなんですか…。」
「奴等は、この世界を破壊して再構成するつもりだ。その為に、人間の反転が多くなっている。反転が立て続けに起こると、世界に揺らぎが発生しやすくなる。その揺らぎを最大限利用して、この世界を潰すつもりだ。」
「それは…。人間の世界にも影響が出るのですか?」
「まあ、多少なりともあるだろうな。どの程度の影響が出るのか、まだ俺でも分からんが。」
大層な話になり、麗花は孤浄の話についていくのがやっとだった。
その反転とやらが鍵となっており、自分が反転してこの世界へとやってきたのは分かった。
「お前さんは、反転しやすいのだろうな。澤野だろ?姓に水が関連しているから、龍神がこちらに引き込みやすいんだろうと思う。仮説だけどな。」
そう言って孤浄は麗花の様子を伺う。やはり、申し訳なさそうな顔をしたまま、手をぎゅっと握り締めたままだった。
「お前さんは悪くない。利用しようとしている奴等が悪いんだ。」
「はい…。」
「全面戦争とまではいかなくても、彼方此方で小競り合いが起こる筈だ。お前さんは、人間界に戻る方が良いだろう。」
「何も出来なくて、ごめんなさい。」
麗花はそう言うとぽつりと涙を溢した。この世界の揺らぎを増幅させてしまったのは、紛れも無く麗花の反転の影響もあるからだ。
ぽつりぽつりと零れる涙が、制服のスカートに濃く染みを作っていた。
何も出来ず、ただ元の世界に帰ることが、麗花は悔しかった。
ただ、この世界で麗花は無力だった。何も出来ないのは、重々分かっていた。
「私を囮にして、例の2人組みを此処へ呼び戻すことは可能ですか?」
「やろうと思えば出来るだろう。しかし、お前さんへ危害を加える可能性が高い。却下だ。」
「私、このままじゃ帰れません。」
「そんなこと言ってどうする。お前さんは、人間世界に戻って暮らした方が、安全だ。」
「嫌です。帰りません。」
麗花は頬を伝っていた涙を、制服の袖で拭って孤浄の目を見てそう伝えた。
意志を持った目は孤浄の目を射抜いていた。それ程に、麗花は覚悟を決めていたのだ。

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「おかしい、掛かって無いな。」
丁度、階段の辺りで声が聞こえた。
「ああ、でも間違いなく反転してきているはずだ。」
二人の男性の声だ。でも、恐らく人間ではない。
麗花はなるべく二人の方を見ないで、手元の札をじっと見つめる。
「まだ何処かにいるのか?」
「そう遠く迄逃げられないだろう。人間如きが。」
「まずは、この中探してからだ。」
「はいよ。」
どうやら、二手に分かれて探す事になったようだ。
そして彼らが探しているのは、麗花である事も分かった。
何故なのか、理由は分からないがここは見つかる訳にはいかない。
一人は青い肌に、黒い角が二本あり身体は鱗の様なもので覆われている。
もう一人は、褐色の肌に角が一本で額に目があった。
額についた目は、辺りをキョロキョロと忙しなく見ている。
目が合ったら見つかってしまう気がして、麗花は目を瞑った。
『どうか見つかりませんように。』
そう祈りながら、ずっと札を持っていたが手の震えが止まらない。
睡蓮がそっと、手を乗せてゆっくりと何度も撫でた。
少し恐怖心が収まった麗花は、睡蓮に向かって頷いてみせた。
「チッ、此処にはいねえか。」
「仕方がない、他を当たろう。」
「全く、やっかいだな。」
そうボヤキながら、彼等は神社から去って行った。
ほっとした麗花は、額の汗を拭う。
「もう喋って大丈夫ですよ。ご主人様がいらっしゃいました。」
「え?」
ベンチから振り返ると、男女が此方へ近付いてきた。
「よう、お嬢さん。二度目だな。」
「あ、貴方はこの間の…。」
前回此方の世界に迷い込んでしまった時に、助けてくれた人物だと分かった。
「ったく、階段気を付けろって言ったろ。」
「すみません…。」
「まあまあ、良いじゃない。この子は無事だったんだから。」
不機嫌そうな狐浄に、凛孤はそう言った。狐浄はまだ何か言いたそうだったが、口を閉じた。
「私は、初めましてよね。こんにちは、麗花ちゃん。私は、凛孤よ。」
「あれ、どうして私の名前を…?」
初めて会う相手なのに、何故知っているのか麗花は不思議がる。
『私が、伝えましたので…。』
「あ、睡蓮のご主人様ってこの人なのね。」
そこで漸く合点がいった。
「まあ、そういう事さ。」
「さて、話が済んだなら今日の事少し詳しく聞かせてくれ。」
狐浄は麗花にそう言った。

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『あなたの名前は?』
困り果てて神社のベンチに座っていた麗花は突如話し掛けられ、慌てて顔を上げた。
目の前を浮遊しているのは、人の形をしているが人よりも遥かに小さい姿をしている。
「妖精?」
『惜しいですね、私は式神の睡蓮(すいれん)です。後にご主人がやってきます。』
急に現れた式神に、麗花は動転していた。
以前も不思議な人物に会ったが、ここまで小さくは無かったのだ。
『あなたの名前は…?』
睡蓮はもう一度優しく、麗花に語りかけた。
「あ、ごめんなさい…。澤野麗花(さわのれいか)です。」
地面に枝で麗花は自分の名前を書いた。
『どうもありがとうございます。』
睡蓮は何かを小さな札に書き付けている。
その札に書かれている文字を、麗花は読む事が出来なかった。
『この札を持っていて下さい。』
そこには、麗花の名前と何か呪文の様なものが書かれている。
「これは?」
『これを持っていて頂くと、あなたの姿を一時的に御隠しすることができます。』
「はい。」
『つまり、私のご主人が此方に辿り着く迄の間に、誰かに見つかっては、困るので…。』
そう言って睡蓮は、少し困ったように笑った。真っ赤な光の中、睡蓮の銀髪がきらきらと光る。
「あ、そうですよね!」
誰も居ないと思いこんでいた麗花は、急に怖くなった。
現れるそれが、敵なのか味方なのかも分からない場所というのは恐ろしくてならない。
『ただ、あなたが言葉を発してしまうと効果が切れてしまいます。』
「…分かりました。」
麗花はしっかりと頷いた。
ここまで手を尽くしてくれている人がいるのだから、せめて自分に出来る事をしっかりとしなければ。
『何を見ても、驚かないで下さいね。此処は、妖(あやかし)の世界ですから。』
そう言って睡蓮は、札を麗花に手渡した。
麗花は手が震えるのを押さえられなかった。
『大丈夫です。私も一緒に居ますから。』
怯えている麗花の頬にそっと触れて、睡蓮はそう言う。
麗花は、頷いてベンチに座って境内の階段を見つめた。



「反転した者の名は、澤野麗花だそうよ。」
「何?またかよ…。」
以前、境内の階段で反転してきた少女の名前だ。
狐浄はそれを思い出したが、結界を破られた原因はまだ分かりそうに無かった。
「あれ、お馴染みの子なの?」
凛孤は孤浄の様子を見て、何やら気になったようだ。
「前の新月に反転してきた。階段気を付けろって言ったのに、アイツは。」
孤浄は舌打ちをすると、足を早める。
「なるほどね。体質的に、こちらに来やすいのかしら。」
凛孤は反転しやすい体質や家系は、僅かながら存在していると知っていた。
日々、孤幻の守の連絡係として動いている立場上、知りえる事実だった。
なので、他言無用の事柄であり、この事は孤浄はまだ知りえない事であった。
「そんな体質あるのかよ、勘弁してくれ。せめて、他の神社に行ってくれ。」
「まあまあ、落ち着きなさいって。睡蓮が言うには、言う事聞いて札持っていてくれているみたいだし。大丈夫よ。」
そうして、凛孤は孤浄を宥めながら二人は神社へと向かっていた。

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「…?」
咄嗟に顔を覆っていた麗花は、そっと手を下した。
しまった。
異常なまでに赤い空を見上げて麗花は、震えた。
辺りを見渡しても、響子の姿は見えない。
どうやら、麗花だけが此方に来てしまったようだ。
「どうしよう…。」
自分が何処に居るのか、確証が持てないまま麗花は神社のベンチに座り込んだ。
どうやって元の世界に戻るのか、まるで分からなくて途方に暮れる。
赤過ぎる空に、耳鳴りがする程の静寂。木々の影が不気味に伸びる。
「あれ…。私、影が無い…?」
自分の足元を見ると、いつもある影が無くなっていた。どういう事なのだろう。
思わず立ち上がって辺りを見渡す。
木々やベンチには、きちんと影がついている。
この世界にとって異物である麗花には、影がついていないのか。
「困ったな…。どうしたら帰れるんだろう。」
狐浄は、次の新月に備えた対策について、孤幻の守に報告をしていた。
「!」
狐浄は、異変に気が付いて顔を上げた。
結界を張った者のみがその結界が破られた事に、気が付く事が出来る。
「反転した者が出ました。」
「そのようじゃの。」
孤幻の守は、頷いた。
「ひとまず、式神を送ります。」
その様子を見た凛孤は、人の形をした札に何やら書き付けている。
何やら小さな声で唱えると、人の形をした札は、風も吹いていないのに飛んで行った。
「すぐに様子を見て参ります。」
「ああ、頼む。凛孤、お主も行って参れ。」
「かしこまりました。」
そうして二人は連れ立って、孤浄の神社へと足早に向かった。
「ったく、大事な話をしている時に…。」
「まあ、そう苛々してもしょうがないわよ。面倒な事にならないと良いけど…。」




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「ねえ、本当に行くの?」
「え、やっぱり駄目?」
響子は少し残念そうな顔をして、帰り支度をしている。
「神社の敷地に入るのは、やっぱりやめよう?」
「うーん。そっかあ。」
帰りのホームルームが終わった教室は、がやがやと騒がしい。
響子と共に教室を出て、麗花はどうしたらいいか暫く考えていた。
「私だけ行ってきても良いよ?」
考え込んでいる麗花を見て、響子はそう声を掛けた。
「でも、心配だよ。」
それが正直な気持ちだった。自分が取り残されたときを考えると、ぞっとした。
カラスの鳴き声が聞こえてくる。もうすぐ例の神社が見えてくるところだ。
とうとう、神社の前に着いた。神社はいつもの様に、静かに風が吹いている。
「麗花、着いたね。」
「うん…。」
不安の中、麗花は神社を見つめる。この前の様な事が絶対起こるとは言えない。
しかしあの耳鳴りのする様な静けさの世界は、そう簡単に忘れる事が出来ないものであった。
「私、様子見てくるから、麗花は此処に居て?」
「え、一緒に行くよ。」
響子が歩道と神社を繋ぐ石段を上るのを見て、麗花もその後を続いた。
あ、この石段だった。ふとそう思った時、足首を引っ張られる様な感覚に襲われる。
麗花は、自分の足元に蛇が絡みついているのを見た。蛇は、真っ白な身体で赤い目をしている。
「響子!」
前にいる響子を呼び止めようと、麗花は声を上げた。
「麗花?」
響子は振り向いたが、そこには誰もいなかった。ただただ、風が吹くばかりである。
「麗花!」
慌てて数段の石段を降りて、歩道の左右を見渡しても麗花の姿は見当たらなかった。

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麗花(れいか)はこの間体験した不思議な事象を、親友である山野響子(やまのきょうこ)に話をした。
「神隠し…とは、また違うよね。」
一連の話を聞いた響子は、ぽつりと呟いた。一般的に言われている神隠しと、麗花が体験した話は似通った点もある。
しかし、神隠しとは、また少し話が違うのだ。
「誰だったんだろうね、その人。」
「分からない…。元に戻ったと思ったら、一瞬で消えちゃって。」
うーん、と響子は眉間に皺を寄せて考え込む。麗花は、此処ではない何処かで会った人物を、思い出していた。
人間と似た様な容姿をしていたが、それは仮の姿なのかもしれない。
響子は何かを思いついた様で、麗花の顔を見た。
「今度、一緒に行ってみよう。」
「え!?」
「駄目かなあ…。」
「ちょっと、怖くない…?」
まさか、こんな展開になるとは麗花も思っていなかった。此処ではない何処かへ、一緒に行けるのかどうかさえ分からないというのに。
もしあの人が居なければ、此方の世界へ戻ってくる方法すら、分からない。
麗花は喉元からひんやりとした水を流し込まれた様に、血の気が引くのを感じた。
「戻って来られるか、分からないんだよ…?」
「それは…。そうだけど。」
もごもごと響子は口ごもった。それでも、行きたいという意思が伝わってくる。
「しょうがないなあ…。行って何も無かったら、すぐ帰ろう。それなら、良いよ。」
「やった、ありがとう。」
響子は嬉しそうに笑ったが、麗花は心配で仕方なかった。


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【妖怪世界】
■物語の舞台
・山間の新興住宅地
・舞台となる地域は稲荷神社が多い為、妖狐(ようこ)が多い
・地域によっては、龍神が多い所もある。

■妖怪の階級
・妖怪の階級は、低級・中級・上級・守(かみ)と大きく分けて4階級に分かれる。
・低級の妖怪は、自身の姿を定着させる事が困難である。姿は見えなくても、側にいる事も。妖術(ようじゅつ)を扱う事は、出来ない。
・中級の妖怪は、自身の姿を定着させる事が出来る。簡単な妖術を操れる。木の葉をお札に、など…。
・上級の妖怪は自身の姿を定着させる事が出来る。また、別の容姿に変える事も出来る。妖術を操る事ができ、相手に幻覚を見せる事も出来る。また、祀られてる稲荷は、結界を張る事も出来る。
・守(かみ)は自身の姿を定着させ、ある地域一帯の妖(あやかし)をまとめる立場にある者である。扱う妖術も高度なものが多く、口伝により伝わる幻の妖術も扱える。

■反転とは
現世にいる人間が現世とあの世の狭間に、何らかの拍子に迷い込んでしまう事。
狭間の世界に住むのは、お稲荷様や妖怪等の妖怪世界である。
現世と近い別の世界という事で、反転世界とも呼ばれる。
反転した現世の人間は、妖怪世界では自身の影を持たない為、直ぐに分かる。
反転する場所は、神社に限らず起こり得る。龍神由来の土地では、川などで反転する可能性もある。
反転した人間は、上級以上の妖で無ければ現世へ帰す事が出来ない。
【人間世界】
・時代設定は現代。
・山間の新興住宅にある神社が主な舞台となる。
・反転して狭間の世界に迷い込むのは、老若男女問わず起こり得る現象である。
・行方不明者や神隠しにあった人間の中には、狭間の世界に迷い込んだ者もいる。


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「狐浄、よく調べてくれた。粗方は理解したが、お主の考えを聞こう。」
ゆらりとお香の煙が立ち上る。狐浄は、持参した資料と月の暦を、狐幻の守の前に広げて見せた。
「今年に入ってから、反転している人間は全て新月の日だけでした。
昨年は、新月の日以外にも、反転した人間が数名おります。」
凛狐に預けた書簡を広げて、狐幻の守は日にちと月の満ち欠けを確認している。
「ほほう。何か狙いがありそうだな。」
「はい、私もその様に思います。力が弱まる新月を狙ってくるでしょう。
しかし、ひとつ分からない事が…。」
「ふむ、何であろう?」
「人間を反転させて、得られる利益があるのでしょうか?」
そう狐浄が問うと、狐幻の守は難しい顔をして腕組みをした。
「反転が規則的に行われる事によって、此方と彼方の世界の境界に揺らぎが生まれる。
その揺らぎによって、どちらかの世界が崩壊する様な事にもなりかねん。」
狐浄は自分が想像していたよりも大きな話だった事に、驚いていた。
落ち着けと自分へ言い聞かせた。
「次の新月までの間に、結界を強化します。
新月の日には、凛狐をお借りしても宜しいでしょうか…?万が一の為に。」
「ああ、構わん。お主が必要とする者なら、力になってくれるだろう。」
「有難うございます。」
深々と頭を下げ、狐浄は狐幻の守の元を後にした。

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古地図と巻物を読み進めても、前回検めた時と得られる情報は同じであった。
暦と月の見え方からも、調べる必要がありそうだ。
狐浄は文机に山の様に書類を積み重ねつつ、月の暦を探す。
月の暦には、月の満ち欠けが暦と共に記されているものである。
巻物を畳みへ広げ、手に持った月の暦を見ながら丁寧に読み進める。
そして、漸く一つの真実を掴んだ。
「新月の日か…。」
今年に入って反転してきた人間は、全て新月の日に現れている。
漸く共通点を見つけ出した狐浄は、その共通点と日にちと反転した人間の名を紙にしたためた。
新月の日は稲荷の力が弱まり、満月へ向けて稲荷の力が強まる。
新月の日であれば、結界を破る事も不可能では無い筈だ。
そして、その結界を破り修復しているのは、稲荷以外の妖(あやかし)という事になる。

「狐浄、その後はどう?」
境内から呼び掛ける、凛狐に目で此方へ来いと訴える。
それが通じ、凛狐は狐浄の側へとやってきた。
「何か見つけ出した顔をしているね。」
「まあな。実に単純な事で、少し驚いた位だ。」
凛狐は、狐浄が共通点と人間の名をまとめていた紙に目を通す。
「稲荷の仕業では、無さそうね。」
「ああ。身内じゃなくて良かったけど、犯人探しは苦労するぜ、これ。」
溜息をつく狐浄に、凛狐はそうねえ、と同じく小さな溜息をつく。
「狐幻の守様へ見せた方が良いわね。」
「ああ、そのつもりだ。」
狐浄は、書簡を折り畳み凛狐へと手渡した。
「俺は資料整理して、後から行くから、先に渡しておいて貰えないか?」
「その位、お安い御用よ。早く来なさいね。」
凛狐は、胸元へ書簡をしまい神社を後にした。
からんころんと下駄の音が響いた。
必要な資料をまとめ月の暦を持ち、狐浄も狐幻の守の元へと急いだ。

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