roika_works 【単発】彼の瞳 忍者ブログ
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お題:黒曜石 (シキカさんより)

彼の横顔が好きだった。凛として、何者も寄せ付けない強さが感じられる、その瞳が好きだった。彼の好きな所を挙げていけばキリがない。読書中に伏せられた長い睫毛から覗く、瞳。上から下へと文章を追い掛けていくその瞳を見て、少し本に嫉妬した位だ。彼は人の目を見て話す事が、特に苦手だと言っていた。それは、彼女である私に対しても例外では無かった。きちんと見つめ合って言葉を交わしたのは、彼が私に告白をしてきた時ぐらいだろうか。そう考えると、こんなに近くにいるのにその瞳に映る事さえ出来ない私は、一体何なのだろうと疑問に思う。勿論、彼のそういった面を知っていたし、今更どうこう言って変えるのは難しいだろう。多少苦手な物事がある方が人間らしくて良い。彼はそう思わせる位に、私にとっては完璧な存在だった。

「その本、面白い?どんな話?」

読書が一段落したのか、彼がふと窓を見た時に声を掛ける。太陽に照らされて伸びる影は、随分長くなっていた。もうすぐ太陽も沈んでしまうだろう。彼は、本の背表紙を一撫でして、私の問いに対する答えを考えている様だった。

「悪くない。少なくとも、俺は好きだな。海外の冒険家の話だよ。」
「そうなんだ。今度私も読みたいな。」

そう言うと彼は私の目を見た。久し振りに此方を向いた顔に、私は少し驚いた。彼の方から視線を合わせる事は、これまで殆んど無かったのだ。夕陽に照らされた窓から差し込む赤色は、彼の輪郭を柔らかく照らす。

「読み終わったら、貸すよ。」
「ありがとう。」

彼は少しはにかんで、照れている様だった。こういう顔を見られるのは、彼女である私の特権だ。

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