roika_works 忍者ブログ
Twitterで投稿した小説やイベント参加情報をまとめています
Admin / Write
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

二人で黙ってプラットホームのベンチに座っていた。
田舎の駅は、人も疎らである。
「そろそろ発車時刻みたいだから、電車乗るよ。」
彼はそう言ってスーツケースを手に取り、電車へ乗り込んだ。
ドアが閉まる迄は、まだ時間があるようだ。
「気を付けて行ってきてね。」
私は上手く笑えているだろうか。少し上ずった声で、見送りの言葉を贈る。
「うん、ありがとう。」
彼は照れ臭そうに笑った。
「ちゃんとご飯食べるんだよ。」
そう言うと彼は笑った。
嗚呼、やはり笑顔が好きだなあと悠長な事を考えていた。
発車ベルの音が、プラットホームに響き渡る。私は一歩後ろに下がった。
「着いたら電話するよ。」
「うん、ありがとう。待ってる。」
ドアが閉まる。彼と私の間に、物理的な壁が出来た。
彼は、ドアについている窓から、こちらに向かって手を振っている。
電車がゆっくりと動き出す。私も手を振って彼を見送る。
今出来る精一杯の笑顔で、私は手を振り続けた。
「置いて…行かないでよ…。」
ぽつりと呟いた独り言と共に、一粒の涙が頬を滑り落ちた。
人のいないプラットホームに、独り言は吸い込まれて消えていった。

拍手

PR
睨み付ける瞳には、殺意が燃えていた。
「てめえ、何した。」
「人材整理だよ。」
何をしたかなんて、この部屋を見れば分かるだろうに。
「全員殺す必要は無いだろ!」
「誰かから情報が漏れるより、安心だと思うけどねえ。」
「だからって…。」
「こいつらより情報の方が価値があるんだ。それだけだよ…?」

拍手

『単発』
・「侵食する音」追加
・「小指繋ぎ」追加

拍手

寝る時には小指を絡ませて、少し話をする。
タオルケットに、包まりながら他愛も無い話をする。
それは、ただただ幸せな時間だった。
いつもとりとめのない話をする私に、彼は相槌を打つ。
2人で笑ったりしながら、小指を絡ませている。
やがて小さな寝息を立て始めて、私も目を閉じる。
静かな部屋で眠る。

拍手

雑踏。雑音。
イヤフォンを、耳に嵌めて音量を上げる。
人混みは嫌いだ。
だが、嫌いだからといって避ける生活は、この時代では難しい。
大量の人を輸送する電車、駅は朝から騒めきに包まれている。
こんなに沢山の人間が、何処に行き何をするのだろう。
雑踏。雑音。
頭の中にこびり付いたそれを剥がせない。

拍手

『単発』
・「死に損ないの私と夢見がちな彼」追加
・「蕩ける蜂蜜」追加

拍手

短く切り揃えられた桜色の爪、涼し気な目元、キリッと上がる口角。
大きな目は印象的な、蜂蜜色をしている。
瞬きすると、蕩けてしまいそうな色合いだ。
「そんなに見られると、照れる…。」
「え、あ、ごめんね。」
「や、別に良いけど…。」
伏し目がちにそう言ったあなたは、照れ臭そうに笑った。

拍手

ふと目が覚めた。其処は見知らぬ天井だった。
しかし、隣にはよく見知った顔がいた。
其方に顔を向けると、ほっとした顔をして微笑まれる。
「大丈夫、大丈夫。」
そう言って私の手を取り撫でる。
ぼろぼろと涙が瞬きをする度に、零れ落ちる。
私の気持ちなど何も知らないくせに、よくそんな言葉が言えたものだ。
「私は、私は…。」
「君は此処にいる。生きている。」
頭と両腕に巻かれた包帯、幾つものチューブに繋がれている。
足にはギプスがつけられている。
また失敗した。
「私は、また失敗した。死に損ないだ。」
「違うよ。神様がまだ早いからって、君を此方に帰してくれたんだよ。」

拍手

『宴は満月の夜に』
・「救いの手」追加

拍手

『あなたの名前は?』
困り果てて神社のベンチに座っていた麗花は突如話し掛けられ、慌てて顔を上げた。
目の前を浮遊しているのは、人の形をしているが人よりも遥かに小さい姿をしている。
「妖精?」
『惜しいですね、私は式神の睡蓮(すいれん)です。後にご主人がやってきます。』
急に現れた式神に、麗花は動転していた。
以前も不思議な人物に会ったが、ここまで小さくは無かったのだ。
『あなたの名前は…?』
睡蓮はもう一度優しく、麗花に語りかけた。
「あ、ごめんなさい…。澤野麗花(さわのれいか)です。」
地面に枝で麗花は自分の名前を書いた。
『どうもありがとうございます。』
睡蓮は何かを小さな札に書き付けている。
その札に書かれている文字を、麗花は読む事が出来なかった。
『この札を持っていて下さい。』
そこには、麗花の名前と何か呪文の様なものが書かれている。
「これは?」
『これを持っていて頂くと、あなたの姿を一時的に御隠しすることができます。』
「はい。」
『つまり、私のご主人が此方に辿り着く迄の間に、誰かに見つかっては、困るので…。』
そう言って睡蓮は、少し困ったように笑った。真っ赤な光の中、睡蓮の銀髪がきらきらと光る。
「あ、そうですよね!」
誰も居ないと思いこんでいた麗花は、急に怖くなった。
現れるそれが、敵なのか味方なのかも分からない場所というのは恐ろしくてならない。
『ただ、あなたが言葉を発してしまうと効果が切れてしまいます。』
「…分かりました。」
麗花はしっかりと頷いた。
ここまで手を尽くしてくれている人がいるのだから、せめて自分に出来る事をしっかりとしなければ。
『何を見ても、驚かないで下さいね。此処は、妖(あやかし)の世界ですから。』
そう言って睡蓮は、札を麗花に手渡した。
麗花は手が震えるのを押さえられなかった。
『大丈夫です。私も一緒に居ますから。』
怯えている麗花の頬にそっと触れて、睡蓮はそう言う。
麗花は、頷いてベンチに座って境内の階段を見つめた。



「反転した者の名は、澤野麗花だそうよ。」
「何?またかよ…。」
以前、境内の階段で反転してきた少女の名前だ。
狐浄はそれを思い出したが、結界を破られた原因はまだ分かりそうに無かった。
「あれ、お馴染みの子なの?」
凛孤は孤浄の様子を見て、何やら気になったようだ。
「前の新月に反転してきた。階段気を付けろって言ったのに、アイツは。」
孤浄は舌打ちをすると、足を早める。
「なるほどね。体質的に、こちらに来やすいのかしら。」
凛孤は反転しやすい体質や家系は、僅かながら存在していると知っていた。
日々、孤幻の守の連絡係として動いている立場上、知りえる事実だった。
なので、他言無用の事柄であり、この事は孤浄はまだ知りえない事であった。
「そんな体質あるのかよ、勘弁してくれ。せめて、他の神社に行ってくれ。」
「まあまあ、落ち着きなさいって。睡蓮が言うには、言う事聞いて札持っていてくれているみたいだし。大丈夫よ。」
そうして、凛孤は孤浄を宥めながら二人は神社へと向かっていた。

拍手

29  30  31  32  33  34  35  36  37  38  39 

忍者ブログ [PR]