roika_works 【僕と猫】僕等の出会い 忍者ブログ
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 石ころを蹴りながらの、下校途中。
ランドセルから下げた、給食エプロンの袋がゆらゆら揺れる。
まだ夕陽が落ちるには早い時間帯だ。
今日は塾もないし、少しくらい寄り道しても問題ないだろう。
 通学路途中にある公園に立ち寄ることにした。
思っていたよりは人がおらず、ブランコ近くのベンチにランドセルを置き、ブランコに座った。
ギチリと、鉄の鳴る音がする。ゆっくりと、ブランコを漕ぎ始めた時に気がつく。
隣のブランコには、三毛猫が座り此方を見ていた。先程は居ただろうか?
確か三毛猫はメスが殆どだと聞いた事があった。
「どうしたの?ミケちゃん?」
思わず声を掛けてしまった。
「ミケじゃない、私の名前はカエデだよ。」
返事が返ってくるとは思わなかった。
驚いてブランコを漕ぐことすら忘れてしまっていた。猫が話した。
「私は秋に生まれた、だから季節から名前を取ってカエデになったの。母からそう聞いたわ。」
話をするというよりも、頭の中に直接言葉が流れ込んでくるといった方が正しいかもしれない。
カエデの日本語はとても流暢であったし鈴のような澄んだ声をしている。
「貴方の、名前は?」
ゆっくり、目を細めてカエデと名乗るその猫は自分のことを興味ありげに見つめていた。
「僕は、タケル。父さんがタケフミだから、漢字をひとつ貰ってタケルになった。父さんに聞いた事があるよ。」自分の名前と由来を、カエデと同じようにざっくりと語った。
「タケルとは気が合いそうだわ。」
カエデは少し嬉しそうだった。少し空が高くなってきた、初秋の日に僕らは出会った。
 朝ご飯を食べる、学校へ行く、塾へ行く、家に帰る、夜ご飯を食べる、そして寝る。
単調な毎日の繰り返しだった。
幸いなことながら、自分は成績は然程悪くなかったので、塾が休みの日でも多少なり帰りが遅くても母は怒らなかった(勿論夕刻を伝える鐘が鳴る迄には必ず帰らなければならないが)。
一言で言えば、「退屈ではあるが、不満はない。」
僕の生活は、正しくその通りであった。
カエデと名乗る猫と出会い、14日程経った。その間色々な事を聞いた。
隣町の猫の話や、この公園に植わっている木や、自然のことが多かった。
実際に会話をすると言うより、戯れに僕の頭の中に言葉を放り込んできていた。
何せ猫なのだから、気紛れだ。
教えてくれとせがんだ花の名前を、次の日にぽろっと教えてくれたりする。
そうして僕らは少しずつではあるが、着実に親密になっていった。
種類の違う生き物とここまで、コミュニケーションが取れるとは生まれて初めて知った。
 少し退屈だった毎日のループの輪にカエデが加わり、何故だか僕は毎日が少しだけ楽しみになったのだ。
僕が学校が終わって、公園へ立ち寄るとカエデはいつも決まってブランコの椅子に座って、遠くを見ている。
澄んだ薄黄緑の瞳は何を見ているのだろうか。
僕に気がつくとカエデはその顔はしなくなる。
人懐こく「にゃおん」と鳴いて
「今日は何を話す?」
と聞いてくるのだった。

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