roika_works 【単発】貴方の思考の欠片 忍者ブログ
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ぱたりと本を閉じる音がして、視線を上げる。満足そうに、本の表紙を見ていた。「面白かった?」一言だけ問う。少しだけ間を空けてぽつりと「まあ、それなりに…。」と何やら歯切れの悪い返事がきた。しかし「面白くない。」とは言わなかった。彼が自分の心の内を伝えるのが難しいと知っていたので、余程面白かったのだろうと想像する。彼は本を読み終わった後、頭の中の空想世界に旅立つことが度々あった。誰が話し掛けても、肩を揺すってみても、うんともすんとも言わないのだ。こちらが諦めかけて別のことをしていると、自然と空想世界から戻ってきていた。きっと読んだ本の内容を頭の中で組み立てているのだろう。「その本、私も読みたいな。」そう言うと、彼は例の本を此方へと寄越した。私は本が読みたい訳ではなく、彼のことを知りたいのだ。読み終わった後に、いつもそれを読ませて欲しいと頼む。こうしてまた彼の知らない一面を見つけていくのが、今の私にとって、かけがえのないことであった。

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