roika_works 【単発】片耳のウサギ 忍者ブログ
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「助けて」と言えたら良かったのに、と火傷の痕をなぞりながら今でも思う。
そう言えていたら、私は少しは綺麗でいられたかもしれない。
痕を気にして前髪をずっと伸ばし続けていなかったかもしれない。
私を気味悪がる人は、少なかったかもしれない。
それでも当時の私は助けてという一言が言えなかった。



彼女を守りたいと初めて思ったのは、随分と前の事だ。
アシンメトリーに伸ばした髪が印象的な子だった。そして無口だった。
髪の長い方から話し掛けると、彼女は決まって聞き返した。
不思議に思ったが問いはしなかった。
風が吹いた時に、右頰がチラリと見えた。
酷い火傷の跡が右耳に掛けて広がっていた。
彼女は慌てて、髪の毛を押さえた。
泣きそうな顔で、僕を見て何故か彼女は謝った。
こんな私でごめん、と。
僕は彼女にハンカチーフを差し出し、僕が君の耳になると伝えた。
彼女は静かに声を殺して泣いた。
ハンカチーフが、ぐっしょり濡れる程泣いた。



嬉しくて泣く日が来るなんて、思っていなかった。
差し出されたハンカチーフに、次々と涙の染みが出来、暫くするとぐっしょりと濡れてしまった。
落ち着いた頃に、大丈夫?と静かに聞かれた。
何度も頷いて答えた。
何か言葉を発すると、泣いてしまいそうだったのだ。
きっと彼は、それを察していただろう。

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