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聡史は、美咲からきたメッセージを何回か読み直した。女子とこうした何気ないやり取りをした事が無かったので、変な事を言っていないか今更になって気になってきたのだ。気にした所で、送ったものを消せる訳では無いのだが。

『普通の会話、だよな。』

部活の話、宿題の話、よくある話題だ。こういうのが女友達というものだろうか。その日の後も何回か連絡を取り合った。だが、美咲は返信が遅いと催促する事も無かった。


「おはー、聡史。数学のワークやった?私分からないのがあってさあ…。」
「おはよ。どこのページ?」

美咲がワークを鞄から取り出して、パラパラと捲り始める。それを横目で見つつ、自分のワークを聡史は鞄から取り出して同じようにページを捲る。

「五十六ページの問二のやつ。」
「ちょい待って。ああー、これか。」

確かに少し手強かった問題だ。自分は、なんとか解けたが、美咲は数学が苦手らしい。聡史は、教科書のページを捲り公式を探した。

「これ、この公式使うんだ。」
「どれどれ…。」

ふと、美咲が此方へ身体を寄せてきた。教科書に書かれた小さな文字を見るのだから当たり前だが、聡史は少し焦った。

「そっかあ、それかー。数学の授業迄に出来そうかなあ。」
「分からなかったら聞いてくれ。答えは言わないけど、ヒントなら出せるから。」
「うん、ありがとう。」

美咲はそう言うと、聡史の側から身体を離し自席に戻る。数学の教科書を捲る横顔は真剣だった。聡史は、何焦ってるんだよと自分自身に言い聞かせていた。

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『単発』
・「カウントダウン」1本追加

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『何気ない高校生活』
・「惹かれる点」1本追加

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帰宅しベッドに倒れ込む。ぐるりと世界が反転する。嗚呼、この部屋はこんなにも平和だというのに、一歩出れば多過ぎる情報に翻弄されてしまう。テレビもつけず、携帯電話も鞄に入れっぱなしだ。時計の秒針の微かな音が聞こえる。平和でいられる時間を、カウントダウンされているようで少し怖くなった。

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『チア部って、どう?練習大変そうだなって思ったけど。』
『最初入った時は、皆と揃えるのが大変だったよ~。でも、今は楽しいって気持ちの方が大きいかな!』

美咲は高校からチア部に入部したので、入部時は未経験者だった。それが今では楽しく、毎日部活に行くのが楽しみらしい。美咲の文面から嘘や取り繕う様子は全く無かった。聡史は、少し美咲が羨ましく思えた。自分には夢中になれるものが何かあるだろうか。

『楽しいものがあるっていいな。俺、宿題の続きするから返信途切れると思う。』
『分かった!てか、私もしないと!また明日ねー。』

ふつり、と緊張の糸が途切れる。聡史は目の前にいない相手に、何故緊張するのかを考えた。そうだ、美咲の表情や声色が文字では分からないからだ。それで自分は緊張するのだ。何か間違った事を言っていないか、相手に迷惑を掛けていないか、聡史はそういった事に過敏に反応する性格を持ち合わせていた。
目の前のプリントに目を落とし、改めてシャープペンシルを握り分かる個所から埋めていく。時折参考書やノートを引っ張り出し、似たような英文を探し似た様に仕上げていく。英語が苦手な聡史にとっては、こうやって解くのが精一杯だった。数学であれば、もっと早く終わっただろうなあとぼんやりと思う。そうこうして、何とかプリントを仕上げてノートにプリントを挟み込み、鞄に教科書と共にしまう。ああ、やっと一段落だ。風呂でも入って、さっぱりしたい所だ。

『宿題終わった?』
『なんとか終わった。正解かは分からないけど。』
『なんだかその言い方、聡史らしいよね。』
『美咲は良く分かるなあ、そういう所。』
『ふふふ、私結構鋭いのかも。』

美咲がにやりと笑う様子が頭に浮かんだ。聡史は少し、ほっとしていた。美咲の竹を割った様な、真っすぐな性格はとても良いなと思った。

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『何気ない高校生活』
・「文字を交わす」1本追加

『単発』
・「天使の階段」1本追加

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暫く、聡史は美咲への文面を考え、書いては消しを繰り返していた。そうこうしているうちに、美咲の方から連絡がきた。

『やっと部活終わったよー。聡史は何してた?』

短い文だったが、聡史は自分の鼓動が少し早まった様な気がした。いやいや、気のせいだと聡史は自分に言い聞かせる。

『お疲れ。俺は宿題やったりしてた。』

目の前の机に広がる、英文が書かれたプリントを見てひとつ溜息。終えるには、もう少し時間が掛かりそうだ。

『英語って明日プリント提出だっけ?』
『そうだよ。苦手だから後回しにしてたけど、早くやれば良かった。』
『聡史は文句言いながらでも、ちゃんとやるじゃんー。やらない奴もいるけど。』

確かに同じクラスに、宿題をやって来ない人間も少数だがいるのは確かだ。でも、自分は褒められたものだろうか。

『美咲は英語得意だからいいよなあ。』
『少し得意なだけだからね!』

美咲が笑ってそう言う声が聞こえるようだった。

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数日の雨と曇りが続き、漸く晴れ間が覗いた。雲の隙間に太陽の光が差し込む。天使の階段だ。何処かで誰かに聞いた事がある。それが意味する事は忘れてしまったけれど。名前の響きだけは覚えていたのだ。溜まった洗濯物が一気に片付くのは、中々気分が良かった。今日の日和だと、洗濯物もよく乾くだろう。天使の階段、ふと口に出して呟く。もしかしたら、君はあの階段を降りてきて、手を振って戻ってきてくれるのではないか。くだらない空想だと分かっている。それでも、天使の階段という響きは空想を現実にしてくれそうな雰囲気があった。ひとつ溜息を吐き、現実に戻る。空想を掻き消すように、レースのカーテンを乱暴に引いて閉めた。

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『単発』
・「誰にも言わない事」1本追加

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朝焼けの時間が随分と早くなった。冬には未だ暗かった時間でも、周りを見通せる程になっている。こういう事で、季節の変化をしみじみと感じる。もうすぐ梅雨だとか、冬の冷えた空気だとか。自分はそういう事に感動する方では無い。一人でランニングをするこの時間を、彩る季節の変化は悪く無いと思う。

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