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あなたの背中を追いかけてきた。
私にとってあなたは、理想そのものだった。
いつか、あなたに言われた言葉は何だっただろうか。
思い出そうとすると、頭の中にノイズが走るのだ。
とても大切な言葉だった筈なのだ。
あの人の人生そのものを表すような。
私は今日もあなたの見えない背中を、追いかけている。

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「おいで」
そうしてゆっくりと抱き寄せる。
猫っ毛の髪の毛を撫でた。
「何かあった?」
「ちょっと疲れてな」
心配そうに此方を見つめてくる。
こんな顔をさせてしまっている自分が、情けなかった。
「こうしていると、充電出来る」
「充電?」
「うん」
「そっか、元気出た?」
「そうだな」

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喫茶店で他愛も無い話をするのが好きだ。
好きな珈琲や紅茶をそれぞれ飲みながら、映画や本について語る。
その時間がとても好きだ。
互いに話が尽きなくて、延々と話をした。
2人の間では金曜の夕方に、喫茶店で語らうというのがいつしか習慣となっていた。
約束をしなくても、その喫茶店に君が必ずいる。

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年の瀬は何かと忙しない。
人々は年末年始の過ごし方について、話に花を咲かせている。
実家には18歳の頃から帰っていない。
どうにかこうにかして、自分で部屋を借りたのを覚えている。
小さな六畳間だ。
両親の虐待から逃げる為に上京し、なんとか生計を立てていた。
僕の実家は、この六畳間だけである。

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『私と君』
・「年の瀬に」追加

『単発』
・「入水」追加
・「止まった時計」追加
・「私と貴方の隔たり」追加
・「上手く生きる術を知らない」追加
・「逢瀬」追加
・「あなたの言の葉」追加
・「文通」追加
・「振り回される僕」追加
・「後悔と共にやってくる季節」追加
・「私の秘密」追加

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「卓さん、仕事納め出来そうですか?」
「ううーん、なんとか」
湯のみに入った茶を飲みながら、歯切れの悪い返事をしていた。
「ところで、掃除全部やってくれたのかい?」
「目のつく所はしました」
綺麗になった窓から陽光が差し込む。
「本当君には頭が上がらないよ」
「まあ、卓さんたら」

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洗濯機が回る音が好きだと言っていたのを思い出す。
洗濯機の上面にある小さな小窓から、ぐるんぐるんと洗濯物が回転する様をよく覚えている。
こんなになっても溺れないんだなあ、とよく分からない独り言を零していた。
それも今は過去の話。
洗濯機を覗き込む君はいない。
今日も洗濯機の音は変わらない。

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コップにたっぷりと注いだ水を、半分ほど飲み干した。
自分の荒い息遣いが、狭い部屋の中で大きく聞こえる。
久し振りに嫌な夢を見た。
あの人に置いていかれた、その日のことだった。
どんなに足掻いても、あの人は帰ってこない。
そんなことは分かっていた。
それでも尚、自分はあの人の事が忘れられない。

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静かな冬の日のことです。
雪に自分の足跡が続いています。
今は私1人分の足跡だけです。
2人で一緒に歩いた道を、1人で歩いてあなたの墓前に向かいます。
墓石を綺麗にし、お供物とお線香を上げて手を合わせて目を閉じました。
安らかに休んで下さい。
目を開け、涙で滲む墓石を私は知らんふりしました。

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無性に人恋しい時がある。
同じ空間に2人でいても、そう思う時がある。
言葉で説明したり表現するのは、すこぶる苦手である。
相手の首元に顔を寄せて、後ろからそっと腕を回して抱き締める。
相手も驚きこそするが、腕を振り払われた事は1度も無い。
頭をそっと撫でられ漸く上手く呼吸が出来る気がした。

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